個人的な話になるが私のクラブミュージックというものに対する"LOVE"をさらに深めることとなったアルバムのひとつが King Britt の "When The Funk Hits The Fun"というアルバムだった。アルバムの中のトラックでも特に "REASON"には「は〜っ!こんなトラック作れちゃう King Brittっていったい…!"と思わされた。そしてまさかこんな形でその彼にインタビューし、Yellow でのプレーをナマで聞けるなんて夢にも思っていなかったわけで、この出会いは私にとって一生モノだった。
まず、インタビューで感じたこと、それは彼の全身から発される"いいやつオーラ"。愛想笑いなんて絶対出来ない、たまにいる見ただけでわかる"いい人、"がまさに彼だった。Yellow での彼のプレーは単にDJ、プロデューサーとしてでなく、純粋に様々な音楽を楽しむ彼のスタイルがとてもいい形で表現されていた。ミニマルなテッキートラックからいきなり R&B 的アプローチに入ってもそのフローはあまりにも自然でフロアーがストップすることはない。むしろ様々なジャンルでアプローチしてくる彼のスタイルに皆熱狂!ヒップホップ、ソウル、オールドスクールネタ、ハウス、テクノ。全てが彼の手にかかったらひとつの音楽になっていた… というステキすぎて、あの場にいなかったあなた、残念!!な一夜だったのよ。
> Interview & Translation & Introduction : Eri Nishikami _ Photo : Mark Oxley (HigherFrequency)
HigherFrequency (以下HRFQ) : 日本のクラブシーンについての印象はどうですか?
King Brigg (以下 KB) : 日本は昔から大好きで、色んな経験させてもらってるよ。Yellowや Loop でもプレイしたし、去年の Blue Note なんてほんとに最高だったしね。どこのクラブでもみな音楽のことを良く知ってるし、僕のプレーに対してもいつも敬意を払ってくれる、そういうところが大好きなところなんだ。不満を言う人もいないし、僕の出すヴァイブを理解してくれているよね。
HRFQ : 音楽的なバックグラウンドを教えてください。
KB : いっぱいあるよ…。子供の頃はいつも家でジャズとかファンク、ジャズボーカルなんかがかかってたし、父はファンク、ジャズ、それにラップなんかが好きで、母はジャズボーカルが大好きだったんだ。あと、グローヴァー・ワシントンJr. や サン・ラ とかいったミュージシャンもね。その辺りが基本的なバックグラウンドとしてありながら、高校に入ってからロックとかパンクにはまって、デット・ケネディーやギャング・オブ・フォーとかを聴き始めたんだ。あと、ロックだと AC/DC やレッド・ツェッペリンなんかも僕のバックグラウンドになっていると言えるね。で、80年代後半にDJや制作を始めた時に、これらのいろんなスタイルが僕の音楽になっていったというわけさ。
HRFQ : フィラデルフィアは The Roots とか Jazzy Jeff なんていうタレントが生まれたり、フィリー・インターナショナルっていうレーベルがあったりと、音楽的にとてもおもしろい場所だと思うのですが、なぜフィラデルフィアはそういう場所になったんでしょうか
KB : フィリー・インターナショナルの名前が出たけど、実は今、ギャンブル&ハフ(注1)と仕事をしていて、彼らの昔の作品とかをリメイクしたり、リミックスするというビッグな企画を進めているところなんだ。このプロジェクトはものすごいものになると思うし、むかしの音楽を今によみがえらせて、当時のスター達とこうやって仕事が出来るってことは、本当に素晴らしいことだと思うよ。フィラデルフィアという街は、音楽的にとても歴史のあるところで、ジャズだったらアート・ブレーキー、サン・ラ、ジョン・コルトレーンがいるし、最近では、ザ・ルーツやジル・スコットたちもいる。でも、僕らはそういった環境の中で育ってきたんだ。最高の音楽に囲まれた環境でね。ギャンブル&ハフや最高のジャズ…。あと、クラシックも忘れちゃいけない。フィラデルフィア管弦楽団なんて最高でしょ。だから、フィラデルフィアは音楽的にとても豊かな街で、いろんなジャンルの音楽が混在しているところなんだ。僕もあのフィリー・サウンドの雰囲気が出したくて、オーケストラのメンバーとたくさん仕事をしたものさ。そういった要素がディスコ時代に、この街をユニークな存在にしたんじゃないかな。だって、歌があって、ストリングスも入ってたわけで、フィリー・インターナショナルがそれをやるまでは、ディスコ・サウンドにストリングスなんてあり得なかったわけだからね。だから、ジャンルを超えたサウンド…、例えばロックとヒップホップを融合させたザ・ルーツを始めとして、ジャズとヒップホップ、ロックとジャズ…、そういった融合を常に試みているのがフィラデルフィアって街なんだ。
(注1) いわゆるフィリー・ソウルと呼ばれる一大ムーブメントを起こした、フィラデルフィア在住の伝説的ソングライター/プロデューサー。
HRFQ : フィラデルフィアで定期的にやっているパーティーはあるんですか?
KB : 昔はあったけど、今じゃ時々スペシャルなイベントに出るだけかな。まぁ、クラブ・シーン自体もあまり調子良くないし、最近ではヒップホップならヒップホップ、ファンクならファンク、ハウスならハウスだけってイベントばかりになってしまったしね。昔のように、ジャンルを超えたパーティーっていうのにみんなが慣れていないから、パーティーをするのが難しくなってしまったんだ。これってラジオの影響って大きいかも…。みんあラジオのせいで音楽の聴き方がむちゃくちゃにされたんだと思う。80年代には、ひとつのラジオ局で本当に色んなジャンルの音楽が聴けたのに、今は広告や資本主義のせいもあって、それぞれの局によってプレイされる音楽が、ヒップホップのラジオ局ならヒップホップ、ロックのラジオ局ならロックって感じだからね。キッズたちは偏った音楽の聴き方しかしなくなっていると思うんだ。まあ、そういう要素もクラブシーンを盛り下げる原因にはなってるんじゃないかな。それもあって、レギュラー・イベントっていうのはやっていないんだ。
HRFQ : じゃあツアーにたくさん出ないと…
KB : そうだね、2週間に1回は出るようにしているよ。だいたい週末が多いけどね。
HRFQ : ところでFiveSix Recordingsの新しいリリース予定は?
KB : 最近"This is what a radio should sound like"ってCDをリリースしたところなんだけど、この作品はレーベルのプレゼン的内容になっているんだ。あと、僕の友達でもある Tim Motzer の作品も制作しているところだよ。彼は、Ursula Rucker や Jazzy Jeff といったフィラデルフィアのアーティストたちといつも共演しているギタリストなんだけど、実はボーカリストでもあって、彼の作品はレディオ・ヘッド・ミーツ・デビッド・ボウイって感じなんだ。リリースは多分秋ぐらい、9月か10月頃になると思うよ。あと、Nove Dream Sequence っていうテクノのグループも、秋にリリースを控えている。
HRFQ : テクノなんですか?
KB : そうだよ。デトロイトっぽくて、超ミニマルでセクシーな感じのね。
HRFQ : Ovum Recordings には今でも関わっているのですか?
KB : いや、99年でやめたんだけど、Josh (Wink)とは今でも兄弟みたいなものさ。ただ方向性が違ったから、オレは離れることにして、あとは Josh に任せたって感じかな。
HRFQ : 制作にはどんな機材を使っていますか?
KB : 僕のスタジオにはたくさんの機材があるんだけど、メインになっているのはマックだ。あとソフトでいえば Logic、それに Ableton Live。こいつは信じられないくらいすごいソフトさ。それ以外にもたくさんのキーボードを持っているし、いつも使っているシンセサイザーや MPC サンプラー…とにかくたくさんあるよ。でも、それぞれのプロジェクトで、それぞれ違ったアプローチが出来るのは面白いことだよ。パソコンやラップトップだけで制作する時もあれば、MPCだけで制作するときもあるって感じ。だから、ゲームみたいで楽しいんだ。
HRFQ : Final ScratchとかトラクターTraktor といったニューテクノロジーに興味はありますか?
KB : 今ではそんなにアナログを使っていなくて、ほとんどがCDとCDJあるいはDVDJを使っているんだ。でも、Native InstrumentsがTraktorを送ってきたので、実際に使ってみたんだけど…なんて言ったらいいかなぁ…うまく言えないんだけど、チョッと変な感じ?例えば昔はこうやってレコードを探して、実際にレコードを触って、ジャケットを覚えておいてレコードを選んだものだったけど、今じゃそれが全てCDで、それぞれに曲の名前が書いてあって、一覧になっているって感じでしょ。だから、CDJには慣れる必要があったんだけど、パソコンに慣れるっていうのはまた別の次元の話さ。でも、この間 Francois K と一緒にDJをした時、彼は Traktor を使っていたんだけど、とにかくやってることがヤバくてね。だから人が使っているのを見ると、何だか目を覚まされる気分だよ。Jazzy Jeff も使っているしね。だから次第にその気になってきている感じで、ひょっとしたら次の来日の時には使っているかもよ。
HRFQ : あなたのバイオを読んでて、ディガブル・プラネッツ(注2) にDJで参加したって書いてあったんですけど…。
KB : そうそう!あのバンドにはDJとして参加して、4年くらい一緒にプレーしたかな。一緒に来日したこともあるよ。たしかあれは94年だったかな。初めての日本だったんだけど、ほんと最高だったよ。どこでプレーしたかもう覚えてないけど、確かU.F.O.と一緒にプレーして、とにかくビューティフルだったね。そう言えば、最近、再結成して新しいアルバム作ってるらしいよ。
(注2) 90年代初頭に活躍したジャジーでアブストラクトなサウンドが売りのヒップホップ・グループ。
HRFQ : では最後にファンにメッセージを。
KB : まずはみんなのサポートに感謝したいね。いい音楽だけを届けて、絶対に皆の期待は裏切らないようにするよ!それに、自分のレーベルを通じて、世界中の最高の音楽を紹介していきたいと思ってる。本当にありがとう、じゃあ今夜会おうぜ。
End of the interview
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