10年以上にも及ぶ輝かしいキャリアを誇りながらも、未だ一度も来日を果たしていなかったJunior Sanchez。この最後のビッグネームの初来日公演が、10月18日、HigherFrequencyの運営母体であるSoundgraphics主宰のもと代官山AIRにて開催された。超絶的なターンテーブル・テクニックを駆使しながら、今アメリカで主流となっているエレクトロ系ハウスを中心として縦横無尽に繰り広げられた彼の幅広いプレイは、フロアを埋め尽くしたクラウドを完全に圧倒。最後には何とアンコールが5回も繰り返されるほどの大盛況ぶりで、その素晴らしい内容は、まさに2003年度のベストセットの一つとして我々の記憶に残る事は間違いないだろう。そんな最高のパフォーマンスを披露してくれたJunior SanchezにHigherFrequencyがロングインタビューを敢行。クラブシーンのみならず、音楽ビジネス全体にも渡るテーマに対してクールかつ的確に答えてくれた模様をお届けする。
> Interview & Photo : Matt Cheetham (Samurai.fm) _ Translation & Introduction : H.Nakamura (HigherFrequency)
HigherFrequency (HRFQ) : 昨日、来日して最初のイベントが大阪であったと思いますが、感想はいかがでしたか?
Junior Sanchez : 最高だったね。ハコの雰囲気も良かったし、クラウドの反応も良かったよ。ちょっと技術的な事で困った事があったのは事実なんだけど、全体的にはとてもクールなイベントでとても楽しかったね。
HRFQ : 日本の印象はどうですか?
Junior : とてもクールな所だね。人々もカルチャーもとってもクールだよ。
HRFQ : 初めて目の当たりにした日本のクラブシーンについてはどのように感じましたか?
Junior : みんな一生懸命に何かひとつの事に徹底的に打ち込んでいるって感じがするよ。例えばDeep Houseに興味があれば徹底的にそれに入り込んでいくって感じでね。日本の人たちは、ダンスミュージックというものが、「踊るという行為そのもの」であるという事を理解しようとしていて、そこでどんな音楽がプレイされていても、そのカテゴリーの違いを意識しないで楽もうとしていると思うんだ。
HRFQ : どのような日本人アーティストに影響を受け、かつ、レスペクトしていますか?
Junior : Satoshi Tomiie、Towa Tei、それにStephane K。みんな良い仕事をしているね。
HRFQ : ところで、アメリカのシーンは現在どんな感じですか?聞くところによると、最近では少しシーン全体が盛り下がってきているそうですが?
Junior : 確かにキッズたちはDJと言うものに飽きてしまっていると思う。みんな何かちょっとした物足らなさを感じていて、そういった意味では、今はある種の反動期を迎えているんじゃないかな。みんなただ良い音楽が聴ければいいと思っているし、誰がDJをしているのかとか、どんなジャンルなのかを気にかけなくなって来ているしからね。まぁ、とは言っても、そんなに深刻な話でもないでしょ。結局はダンスミュージックについての話であって、ロケット工学の世界の話じゃないわけだから。
HRFQ : そうですね。でも、最近ではよく「インターネットの普及によって全世界的にシーンが影響を受けていて、特に音楽の売上が大きく落ち込んでいる」と言われていますね。あなた自身が実際にこの影響を感じることはありますか?
Junior : インターネットがダンスミュージックのセールスに悪影響を及ぼしているとは思えないね。だって元々そんなにたくさん売れていた訳じゃないでしょ。ダンスミュージックがメインストリーム・カルチャーの中心に位置していた事もないし、何百万枚も売れたと言う事もないしね。たった一つの例外を挙げるとすればMobyくらいじゃないかな。でも、結果的に彼が数百万枚を売る事が出来たのは、たくさんのライブとツアーを行うスマートさを持ち合わせていたからだと思うし、実際に大勢の人が、Mobyというバンドだと信じこんでいたくらいだからね。だから彼はあくまで例外だと思うよ。
HRFQ : それでは、インターネットがどのような影響を音楽業界に及ぼしていると思いますか?
Junior : インターネットはどんなものにもそれなりの影響を与えているんじゃないかな。確かに、MP3は音楽業界に影響を与えていると思うし、ダウンロードにしてもそうだと思う。でも、Dixie ChicksやShania Twain、Red Hot Chili PeppersやQueens of the Stone Ageといったメインストリームの人達は大きなダメージを受けているかもしれないけど、アンダーグラウンド・ミュージックがそれ程の影響を受けているとは思えないんだ。
HRFQ : あなたとしては、こういった動きをむしろポジティブに捉えていますか?
Junior : 結局は全て不釣合いの中から生じてきた問題だと思うんだ。かつて8トラックが消え去ってカセットテープが出て来た時も、みんな同じようにラジオを録音し始めたでしょ。ボタンを押して音楽を取り込む・・・とても簡単だったからさ。RIAAなんかは色々と手立てを講じているようだし、レコード会社はどこも「誰もCDを買ってくれない!」なんて嘆いているみたいだけど、決してみんながCDを買いたくなくなったという訳じゃないと思うんだよね。だから、問題はむしろMP3がどうしたという事じゃなくて、ただ単にCDの値段が高すぎるという点にあるんじゃないかな。そもそもCDを20ドルや30ドルなんて値段で売っている事自体が馬鹿げているわけだからね。
HRFQ : そうですね。実際、99セントで1曲ダウンロード出来るAPPLEのi-tune Storeは大成功している訳ですから。
Junior : 全くその通りだよ。99セントで一曲って事は、アルバム全部を買っても9.99ドルって事でしょ。やっぱりレコードは10ドル以上しちゃダメだと思うし、上手にやりさえすれば、それでレコード会社は十分に利益を上げられるはずなんだ。だから、レコード会社が、自分たちを苦しめているのがMP3ではなくて、音楽を買わせるのにお金をたくさん取りすぎている自分たち自身なんだという事に気付きさえすれば、みんな音楽をまた買ってくれるようになるんじゃないかな。
HRFQ : こういった流れを受けて、今後数年でシーンはどの様に変化していくと思いますか?
Junior : キッズたちは昔よりスマートになってきていると思う。自分たちに必要なものが何かわかっているからね。彼らは、割高な料金を払ってまでDJを見に行ったりするほど馬鹿じゃないし、それを可能にしていたある種のブームは過ぎ去ってしまった。だから、キッズ達はクラブにも出かけるし、DJを追っかけたりはするだろうけど、常に何か違うものや新しい刺激を追い求めているのは間違いないと思うよ。実際、僕の幼い甥っ子は、いつもインターネットを見ているし、世の中の事をたくさん知っているからね。
HRFQ : さて、ここで話題を少し変えますが、あなた自身、最近はどのようなプロジェクトを進めていますか?
Junior : 幾つかあるね。他のアーティストとのプロジェクトに関して言うと、Princess Superstarsのアルバムに関わっている。それに、自分自身のバンドOutputのプロジェクトも進めているよ。もうすぐアルバムが出来上がるところで、11月と12月にはツアーに出る予定なんだ。他には、Carmenというアーティストの制作を手がけたり、PlaceboやThe Bitter End、それに僕自身のレーベルからリリースしているLA出身のパンクバンドThe Moving Unitsのリミックス等をやったりと、とにかく色んなプロジェクトに関わっていて、忙しくしているよ。
HRFQ : そんな中で今やあなた自身のレーベルCUBEを持つに至ったわけですが、今後はビジネスサイドにおいてもより大きく関わっていくつもりですか?
JJunior : CUBEに関しては、いつも正しい決断を下して来たと確信しているんだ。基本的には自分の好きなものを表現していくためのレーベルだからね。実は、Felix Da Housecats のアルバムKitten In The Glitzも、僕が最初にリリースした人間だったんだ。その後、アメリカに関してはCity Rockersにライセンスする事になったんだけどね。でも、あの作品を僕が最初にリリースした時には、みんな誰もその理由が分からなかったみたいなんだ。で、その後CUBEはしばらく活動を休止する事になったんだけど、今では活動を再開していて、僕自身のシングルや、Christian Smith、Rhythm Masters、Jaques Lu Cont達のシングル・リリースの他に、Vicarいうアーティストの新譜を出したりと、色んなプロジェクトを進めている最中なんだ。あと、The Moving Unitsのアルバムもアナログで全米発売される事になっているかな。
HRFQ : あなた自身、昔も今も色んな人とコラボレーションを経験していると思いますが、どんな人とだったらベストな仕事が出来ると思いますか?
Junior : 基本的には自分自身がレスペクト出来る人間だね。自分と同じような感じでボタンを押す事が出来る人間。決して有名だからとか、シーンの中でホットだからとか言った理由で組んだりはしない。結局、何かが起きる時には自然に起きるものだからね。
HRFQ : 今、誰と仕事をしてみたいと思いますか?
Junior : もしTrevor HornやPrinceなんかと一緒にスタジオに入る事が出来れば、その時は夢が叶う時だね。まぁ、現実的には可能性はないけど。ボーカリストだったら、Kate Bushのようなアーティストと共演できれば最高だね。
HRFQ : あなたはまだ26歳でありながら、あなたの倍の年齢の人間のほとんどが成し遂げていないような事を実現してきましたね。将来に向けて何か具体的なプランはありますか?
Junior : もっとたくさんの曲を書いたり、たくさんのバンドと共演したりして、とにかく良い音楽を作り続けていきたいね。僕にとってDJとは楽しむためのもので、決してシリアスなものでもなければ、みんなが言うような「芸術活動」でもないんだ。もし自分がQ BertやScratch PicklesみたいなDJだったとしたら、確かに芸術活動をしていると言ってもいいのかもしれないけど、あるDJがクラブで何枚かのレコードをかける事で、自分がQuincy Jonesにでもなったと思っているとすれば、残念ながらそれは大きな考え違いだと思うんだ。DJとは自分自身と他の人達とをつなぐ為の表現手段であって、そこには自分の好きな音楽をオーディエンスたちと共有していくという考え方が必要になってくるし、それ故に楽しくなければいけないものだと思う。だから、僕はDJをしている時はいつも楽しむようにしているし、決してダークにもムーディーにもならないように心がけているんだ。
End of the interview
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