JPLS こと Jeremy Jacobs。独自のメタ・テクノ的アプローチを推し進める M_nus のレーベルカラーのなかにあって、ダークさとドープさが同居したひときわディープな作風で独特の存在感を放つアメリカ中部インディアナ州出身のトラックメイカー。Richie Hawtin をはじめとして Magda、Troy Pierce、Marc Houle など他の M_nus のレーベルメイト達がドイツ・ベルリンへと活動の拠点を移すなか、彼は今もアメリカに留まりただひたすら黙々とトラックを作り続けており、「寡黙な才人」 というべきたたずまいすら漂わせている。2006年 "Min2MAX" コンピレーションで M_nus デビューし、2007年には自身初のアルバム "Twilite" をリリース、2009年暮れに M_nus より全世界500枚限定でリリースされた自身2枚目のアルバム "THE DEPTH" はモノトーンでタイトきわまりないグルーヴと深く研ぎ澄まされたサウンドのテクスチャーを基調とし、スネアやメロディラインといった装飾すらも排したアブストラクトな空間性に溢れた作品で、かつて '90年代に Richie Hawtin が Plastikman 名義での作品で体現したシンプルで過激なミニマル理論をさらに進化させた恐るべき内容だった。JPLS は、いまや M_nus における最もエクスペリメンタルでディープなミニマリズムの方向性を担う最右翼的存在のアーティストと言ってもいいだろう。
この2月末には待望の2度目となる来日プレイを直前に控えている彼をキャッチし、Eメール・インタビューを敢行。 "THE DEPTH" の制作コンセプトから、デビュー前にシカゴやデトロイトへ Richie Hawtin のDJを聴きにいっていた頃の逸話、M_nus からリリースするようになった経緯などを訊いてみた。
Interview & Introduction : kohei terazono
-- 2009年暮れに M_nus からリリースしたアルバム "THE DEPTH" は、さまざまなキャラクターのトラックを寄せ集めたものというよりは、それとは正反対の、徹底して統一されたディープな質感でまとめられたコンセプチュアルな内容でした。この作品のコンセプトの裏側にあるアイデアはどういったものだったのでしょう?
JPLS : 他の普通のテクノ・アルバムにありがちなものよりも、もっと作品として統一された、論理一貫されたものを作りたかったんだ。僕の初期のリリースもいわゆるフォーマットにのっとったミニマルトラックだったけど、その決められた枠組みのなかでどうやって自分のパーソナリティを打ち出して独自のサウンドを落とし込んでいくかっていうアプローチについては今も変わることはないよ。リズムとサウンドこそが、トラック上で起こるあらゆる瞬間における相互作用を支配するんだ。"THE DEPTH" のコンセプトをひとことで言うなら、あらゆる物質の近似性とその現象と存在の解体/再構築だね。このアルバムは、はじまりと終わりがすべてつながっているんだ。僕らを取り巻く世界はすべて循環していて、何かの 「はじまり」 は何かの 「終わり」 であってその逆もまた同様なんだ。だから、 "THE DEPTH" においてはアルバムのはじまりと終わりが完璧に繋がってループするように、アルバム全体の構成をとにかく念入りに仕上げたんだ。
-- あなた自身の音楽的バックグラウンドはどういったものなんでしょう?
JPLS : 僕自身は、正統な音楽教育を受けた事は無いんだ。子供のころは両親がよく家でクラシックやオペラのレコードをかけていて、それで僕もヴァイオリンの教室に通わされたんだけど、あまり巧くなかったと思う。ここ5年ぐらいは、トラック制作における理解をより深めるために、音楽理論を学んでいるところだよ。
-- あなたがトラック制作を始めたころ、初めて買った機材は?
JPLS : 僕の親友が、僕がトラックを作り始めるよりもずっと前から Ensoniq ASR-10 を持っていて、僕もその友達のところへ行ってしょっちゅういじっていたんだ。マニュアルもろくに読まずにね。思えば、僕のトラック制作のキャリアの明確なスタートはそこだったな。その後、Akai が MPC2000 を発売して、それでさらにトラックメイキングのおもしろさに夢中になった。あんまりのめり込みすぎて、あやうく大学をドロップアウトしかけるところだったよ!
-- あなたの地元、インディアナ州は地理的に見てシカゴやデトロイトからも近いですよね。こうした地理的な条件が、あなたの音楽性になんらかの影響を与えたと思いますか?
JPLS : その通りだね!ティーンエイジャーの頃は、いつも週末になると Skoozbot (JPLSのアルバムにも参加し、リミックスも手掛けるトラックメイカー) やほかの友達とみんなでクルマに乗り込んでシカゴのウェアハウス・パーティまで遊びに出掛けたもんさ。僕らの地元の町からシカゴまではクルマで1時間かからないくらいの距離だったから、シカゴにはほんとよく出掛けてたな。当時はまだインターネットもそれほど普及していたって訳じゃなかったし、どこかで面白いパーティをやってるっていう噂や、ヤバいレコードが出たらしいとか、そういう情報は街に出掛けていって、いろんな人と直接話したりすることではじめてわかることだった。シカゴは間違いなくハウス・シティだよ。ハウス・ミュージックが街の文化風土に溶け込んでいるんだ。シカゴで本物のハウス・ミュージックを体験して得たものは、間違いなく僕自身の音楽的バックボーンに染み込んでいる。2007年に僕がリリースしたアルバム "Twilite" はデトロイトのテクノとシカゴのハウス、この2つが不可分に混ざり合ったもので、デトロイトとシカゴに対する僕自身のオマージュでもあるんだ。
-- その頃、Richie Hawtin がDJするときはかなりの遠距離であっても遊びに行っていたんですよね?
JPLS : そうだね。ミッドウェスト(ミズーリ/ミシガン/インディアナ) で彼がDJするときにはクルマを飛ばして必ずチェックしに行ってたね。僕が M_nus からリリースするまでの約6年ぐらいはそれがほとんど習慣になってた。というのも、Richie に僕が作った新しいデモトラックを渡すには、パーティで直接彼に渡すのがベストの方法だったし、何よりも彼が世界中から集めてきた最新のレコードを聴くのが楽しみで仕方なかったんだよ。彼がDJするときはどのパーティもいつだってクレイジーだったよ!
-- その甲斐もあって、あなたは 2006年に M_nus からデビューを果たす事になるわけですが、その経緯はどういったものだったんでしょう?
JPLS : 5年間もの間、Richie にパーティで会うたびに数えきれないくらいデモを渡し続けて、驚くべきことに彼は毎回Eメールでトラックの感想を伝えてくれたんだ。僕にとっての最初のリリースになった 'Program' もそのデモの中に入っていたと思う。 'Program' は当時としてはかなり変わった構造を持ったトラックだったんだけど、それが功を奏してRichieの耳に留まったという事実は僕にとって凄くラッキーなことだったよ。
-- M_nus からリリースするようになって、あなた自身を取り巻く環境も大きく変わったと思いますが、これまでのキャリアに満足していますか?
JPLS : うーん、僕自身のキャリアにおいて満足するってことは現段階でも無いし、今後も満足することは無いと思う。というのも、僕がリリースする作品は12インチ・ベースのフロア向けのミニマルトラックと、"THE DEPTH" のようなコンセプチュアルな要素に重点を置いたものに大きく分けられるんだけど、これら2つのバランスを完璧に取るのはなかなか難しいんだ。最近、個人的にはコンセプチュアルな方向性をより深める事に興味が増しているんだけど、その一方でフロアにいるみんなを喜ばせるようなフロア・フレンドリーなミニマルトラックを作り続ける事も大事だからね。アルバムでトライしているようなアブストラクトな要素を、もっとうまくストレートなフロア向けトラックの中に盛り込んでいければいいんだけど・・・まあ、その辺は常に葛藤があるよね。
-- あなたの創るトラックはまるでピュアで剥き出しの電気そのものを扱っているような感触がありますよね。しかも、そこからある種のディープさを抽出することに成功している。
JPLS : うん、最近ではPCをメインにしたプロデュースから、ハードウェアを中心に据えた制作環境に立ち戻りつつあるところなんだ。 "THE DEPTH" で僕がトライしようと考えていたことのひとつに、マシーンから最大限のグルーヴを引き出そうというものがあった。ハードウェアのマシーンが相手だから、その作業はトライ&エラーの繰り返しだったんだけど、おかげでどうすればトラックの構造の中に自分が望む、自分らしいサウンドを埋め込んでいったらいいかって道筋が明確に見えてきた気がするんだ。
-- 今年 2010年におけるリリース・プランや活動の予定について聞かせてもらえますか?
JPLS : 2010年は僕にとって変化の年になると思う。今までは JPLS 名義のみで作品をリリースしてきたけど、今後は他の名義も使って、僕自身が持ついろいろなサウンドの側面を打ち出していければいいなと考えているところなんだ。正直なところ、シーンには退屈きわまりないテクノも溢れてるよね。そこに僕はもっとフレッシュで斬新なアイデアを持ち込んでいきたいと考えているよ。
-- まもなく2度目の来日を控えていますが、日本という国やそのシーンについてのあなた自身の印象はどういったものでしょう?
JPLS : 最初に日本に来たときはほんとブッ飛んだね。今度でようやく2度目の日本行きだけど、日本はすでにいちばんお気に入りのツアー先だよ。どこへ行っても人々は親切だし、僕のパフォーマンスに対しても実にオープンに接してくれる。 日本という国に対する個人的な印象は、何事においても先進的な国だなということ。日本のシーンに対する印象も同様だよ。だから、僕自身も日本でライブする時には常に全力を出し切らなきゃいけないんだ!
End of the interview
[JPLS "The Depth" album tour Info]
2/26 (FRI) @ 代官山 UNIT
LIVE: JPLS (minus/Detroit, USA)
DJ: yoshiki (Runch, op.disc)
SALOON: Keita Magara (dance rodriguez), dj masda (CABARET/toboggan), mitchelrock (freebase)
INFORMATION: 03-5459-8630 (UNIT) www.unit-tokyo.com
2/27 (SAT) @ 名古屋 CLUB ABOUT
LIVE: JPLS (minus / Detroit, USA)
DJs: SO (MINDGAMES / LABYRINTH), AKISS (closer/athletic sex), Ryosuke (T-SOUND/A.T.A / X-hALL), sue (sensualism / forvlast), Maacy (sensualism / NeoLogic)
INFORMATION: 052-243-5077 (CLUB ABOUT) http://club-about.com
2/28 (SUN) @ 大阪 TRIANGLE
LIVE: JPLS (minus / Detroit, USA
DJs: FU-TSUKA/EMANUEL BROTHER, KUNIMITSU (TetlalogisticS), DJ MASASHI & MC AOI (New Generation), DJ CHERRY (ADAM), TETRIS, MONASHEE, HARUTAKA, VERMONT, DJ PuPonZ, ToraToU
VJ : Dquick (Shin1 & chami)
INFORMATION: 06-6212-2264 (TRIANGLE) www.triangle-osaka.jp
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