例え、彼が Jakatta 名義でリリースした American Dream (ハリウッド映画 American Beauty のサウンド・トラック "Any Other Name" をサンプリングしたトラック)をヒットさせたことで最もその名を知られているプロデューサーであったとしても、20年間のキャリアの中で、何百というトラックを生み出してきた Joey Negro は UKで最も精力的で、成功しているダンス・プロデューサーと言えるだろう。(最近発売されたディスコの歴史本 "Turn The Beat Around" によるとの話だが…)彼こそ Seal や Lionel Richie、そして UKのボーイ・バンド Take That といったバンドの音に驚くべき影響を与え、Pet Shop Boys や Diana Ross、Ultra Nate といったメジャー・アーティストのリミックスを手掛けてきた人物なのだ。
「'93年に Ian Levine が Take That から追い出されたとき、プロデューサーDave Lee (世界でも随一のディスコ音楽の知識者そして代弁者である Joey Negro )が、Dan Hartman の 'Relight My Fire' のカヴァーを制作するようバンドに起用されたのだ」"Turn The Beat Around" 筆者の Peter Shapiro はこのように記している。「それからというもの、ディスコはカヴァーというかたちで、ヨーロッパのチャートを支配するようになったのだ」
今回は、ディスコというよりはポップなレトロ・コンピレーション The Trip についてのインタビューであったが、非常にフレンドリーで現実的なJoey Negro は、彼が今まで積み重ねてきたキャリアの中で学んだという楽曲制作の秘訣も、喜んで明らかにしてくれた。例えば、ほとんどの "プロデューサー" が本来ならば明らかにしたがらないような話でさえも。
「プロダクションやアレンジといった部分は、レコードを作る過程において、もの凄く大きな役割を担っているんだ。今までにトラックの一つも作ったことがないような友達の家に行って楽曲を作ろうとしたって、いいものが出来るわけがないよ。世の中には腕のいいエンジニアやプログラマーがいるんだから、少しばかりのアイデア、もしくは使えそうなサンプルを持って彼らにアプローチして、3日間ほど一緒にスタジオに入れば、いい楽曲が生まれてくるのさ」
そういったプロデューサーを雇うのは決して安くはないと強調しながらも、いい曲が完成すれば、レコード会社と契約して、DJのギャラも上げることが出来る。それに、一人で曲作りをする時よりストレスを感じないで済むと話した。
「一日2〜300ポンドも払えば、それなりの仕事をしてくれるエンジニアは見つかるし、6〜700ポンド払えば、かなりいいトラックが出来るはずだよ。初めのアイデアがいいものであれば、なおさらさ」
「一人で取り掛かろうとすると、かなり困難を極めるだろうね。ミクシング・デスクに頭を打ちつけながら『こんな音最悪だ!このサンプルは古過ぎる!あのサンプルも古過ぎる!つまらない曲だ!』って思うのが始末さ。でも、経験のあるエンジニアと仕事をすれば、自分が壁にぶち当たったとしても、彼らが変わりに仕上げてくれるんだ」
「天才的なアイデアじゃなくてもいいのさ」彼はこのように強調した。「例えば、Human League の 'Fascination' のカヴァーを作りたいってだけでもいいんだ。そうしたら、アイデア通りのものが出来上がってくるんだから。出来上がったものが良ければ、アイデアも良かったってことさ」
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以下は対談形式でのインタビューの模様をお伝えする
(Translation by Kei Tajima)
Skrufff (Jonty Skrufff) : 今までに何百というトラックをリリースされてきましたが、曲作りというものは、キャリアを重ねるごとに簡単になりますか?それとも難しくなりますか?
Joey Negro : 「どちらとも言えるんじゃないかな。同じような曲を作らないようにしなければならないからね。プロデュース業を始めたばかりの頃はアイデアがたくさんあるけど、それをすべて試してしまった後はまた新しいアイデアを見つけようとしなきゃならない。ただ、始めたばかりの頃は持っていなかったスキルをキャリアの中で習得出来るという部分もあって、今の方が昔より上手にやれてるとは思うけど、長く続けるほど自分の型にハマリがちだから、それは避けなきゃならないしね。それに、常にシーンの流れに注意して、新しい機材や新しい音楽にも敏感でいることも必要なんだ。もし、誰かが面白い音を作ってるって聞けば、僕自身もそういったテイストを音に取り入れようとしているしね」
「昔はトラックを制作する過程でミスすることもあったけどね。どうやってサンプルを使わないで次のステージに持っていくかも分からないくせに、バック・トラックから先に作ったりしてたよ。でも、最近ではサビや歌詞からスタートするのがベストだって気付いてね。そうやって違った順序で曲作りをして、ベース・ラインやドラム・ビートからスタートする方が、簡単に終わらせることが出来るんだ。以前はやっていたけど、今は他の人のアカペラをサンプルすることもしないし。曲作りとはそうやって学んでいくものなのさ」
Skrufff : 'American Dream' はどのようにして生まれたのですか?
Joey Negro : 「常に良いサンプルに対してアンテナを張りめぐらせているんだ。例え、レストランやバー、映画館といった場所に座っている時でもね。初めて "American Beauty" を観た時、確かオープニングだったと思うけど、直感で 『いいサンプルだな』って思ったんだ。あの映画も好きだし音楽も好きだから、オリジナルのサントラを買って家でよく聴いていたんだけど、あの部分が流れるたびに『スタジオに持っていって、何が出来るか試してみたい』って思ってたんだ。ただ、頭の中ではいいサンプルだと思っても、実際にハウスのビートを加えてみると全然上手く行かなかったりする時もたまにあってね。でも、このサンプルはかなり良い感じに仕上がったんだ。作るのに時間はかかったけどね。アイデアが浮かんで、実際の作業に取り掛かるまで9ヶ月もかかったんだ」
Skrufff : トラックが出来上がってすぐに「手ごたえ」を感じられましたか?
Joey Negro :「一番初めに作ったヴァージョンは、もう少しインストっぽい仕上がりでね。あのインディアンっぽいヴォーカルは乗っていなかったんだ。だから、気に入ってくれた人もいたけど、そんなに売れなかった。でも、トラックを心底気に入ってくれた熱烈なファンもいてね、毎週のようにプレイしてるって言ってくれたんだ。そういうことが僕に『このレコードはプレイする価値がある。リメイクしてもいいかもしれない』って思わせてくれたんだ。そして6ヵ月後にあのヴァーカル・ヴァージョンを作ったんだけど、それがPete Tong にプレイされて、絶賛されたんだ。たくさんの A&Rがそのショーを聴いていて、注目されるようになったという訳さ」
Skrufff : チャートで上位を飾った Leo Sayer の作品についてどう思われますか?
Joey Negro:「ダンス系のレコードなんでしょ?別に商業的なダンス・ミュージックを嫌う人間じゃないから、Westlife を聴くよりはマシだよ。別に買おうとも聴こうともしないけど、例え聴いたとしても、耳をふさいで『最悪』なんて言ったりはしないさ。曲の制作に関わった Craig De Mimech っていうアーティストを知ってるけど、彼はちゃんとした人だしね。彼が成功してるのは嬉しいよ」
Skrufff : 最近、ミックスCD "Trip" をリリースされましたが、John Barry の楽曲から Rosie Vela 、 果ては B52s までと、非常に珍しいトラック・チョイスとなっていますね。一体どういったコンピレーションなんでしょう?
Joey Negro : 「このコンピレーションには、過去に Tom Middleton や St Etienne、それに Snow Patrol といったアーティストが参加しているんだけど、彼らは僕よりもロックのバック・グラウンドを持っている人たちでね。今まで僕がコンパイルしてきたミックスCDは、ハウスやディスコ系のものがほとんどだったから、今回の作品は少し違った作風にしてみようと思ったわけ。実際僕はハウスやディスコ以外にもいろんな音楽に興味があるしね。でもハウスやディスコのコンピレーションを作るときは、レフト・フィールド系のトラックを入れるのが難しいんだ。90%はハウス系にしなきゃならないのさ。でも、このコンピレーションでは、Tubes の "Prime Time" や Dusty Springfield の "Nothing Has Been Proved" といったお気に入りのトラックを入れられたから嬉しかったね。ミックスが上手く行くかどうかを心配するより、相性の良さそうなトラックを選んでミックスしたんだ」
「僕は常にそれが良いレコードかどうかを考えることが大事だと思っていてね。DJ をやっていれば、『この曲とこの曲はミックスするとすごく相性がいいけど、曲単体で聴くと大したことないな』っていう状況に立たされるときが必ずあるんだ。そういう時僕は、『果たして自分がそのコンピレーションを買うだろうか、買ったとしたら満足するだろうか?』ってことを頭に入れて作品を作ってるんだ」
Skrufff : 最近、巷で起こっている Guilty Pleasures ブームについてはどう思われますか?
Joey Negro : 「最近ある人に教えてもらったんだけど、結構いいトラックが入ってるよね。オリジナルをわざわざ探して買うほどじゃないって感じのトラックが入っているし、すごくいいコンピレーションだと思う。特に僕と同世代の人たちにはね。全部のトラックが好きってわけでもないけど、アルバムに入っているうちの50〜60%ぐらいは好きだよ。ダンス・ミュージックがメインのアルバムじゃないけど、中には微妙にディスコへ時代への入り口を思わせるようなビートが入った曲もあるんだ」
Skrufff : Specials のフロントマンで Guilty Pleasures のパーティーでDJをしている Terry Hall が、「Guilty Pleasures は'75年を思わせるようなパーティーだ。一つ違うことと言えば、人々の顔にガラスが突き刺さることがないってこと」と話していましたが、あなたが育ったエセックスのクラブ・シーンで暴力などは多かったのでしょうか?
Joey Negro : 「エセックスは常に暴力的な場所だったよ。Tartan House っていう僕がよく行ってたクラブも常に喧嘩の耐えない場所だったね。巻き込まれることはなかったけど、喧嘩が起きればセキュリティーがやってきて、何人かつまみ出す。そうすればまた元通りさ。人が刺されるくらいのひどい喧嘩でなければね。一度、ジャズ・ファンク系の Second Image ってバンドが Tartan House でプレイしてたんだけど、そのリード・シンガーが刺されたのを覚えてるよ。もちろんクラブに来るのは暴力的じゃない人がほとんどだよ。でも中には喧嘩目当てでやってくる奴もいるんだ。クラブにはナンパ目当てで行く奴が多かったよ。もし女の子が見つけられなかったら、グラスで人を殴るってわけさ。ひどい喧嘩もいくつか目の当たりにしたな」
Skrufff : 当時はロッカー、もしくはモッズだったんですか?
Joey Negro : 「以前はロック系の人たちとよくつるんでたけど、別に "ロッカー" ってわけでもなかったんだ。特に何でもなかったな。小さい町で育って、その町のほとんどの人がロッカーだったってだけなんだ。でも僕の兄弟はパンクやニューウェーブにハマってたけどね。ディスコは常に好きだったんだけど、周りにあまりディスコ好きの人がいなかったんだ。周りはみんな AC/DC や Iron Maiden 、Rush and suchlike なんかを聴いてたよ。実際、ロンドンに移り住むまで、僕と同じような音楽の趣味を持った人とあって、音楽の話をするようなことはなかったな」
Skrufff : あなたは初期の Coldcut をサポートしたアーティストの一人として知られていますが、現在も彼らとは友達なのでしょうか?
Joey Negro : 「彼らとはもうずっと会ってないな。以前は仲がよかったんだけどね」
Skrufff : 現在まで成功してきたプロデューサーで、これからも活躍していけそうな人はたくさんいると思いますか?
Joey Negro : 「そうだね。結構いるんじゃないかな。ただ、昔は今とは全く違う時代だったからね。現在のシーンでダンス・プロデューサーとして名を上げるのは昔より相当難しいんじゃないかな。そう考えると、昔は結構簡単だったのかもしれないね。簡単って言葉は正しくないのかもしれないけど、当時は競争相手も少なかったし、何もかもが新鮮だった。まだ使われていないサンプルも山ほどあったしね。今のシーンにも才能のある人々がたくさん出てきてるのは確かなんだ。例えば Switch とかね。彼は一風変わった、モダンな音をしたトラックを作ってるんだ。今シーンには、コンピューターだけを使って音作りをしている世代の波がやって来ているんだと思うよ。僕もコンピューターは使っているけど、未だに外付けの機材も併せて使っているんだ」
Skrufff : 最近では、一般的に「DJとして成功したいなら、曲を作れ」と言われていますが、ビッグになるためにヒット曲を作るのは簡単だと思いますか?
Joey Negro : 「いいや、本当にいいトラックを作るのは簡単なことじゃないよ」
End of the interview
Joey Negro コンパイルによる "The Trip" は、Family Records から発売中
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ディスク・レビュー : JOEY NEGRO / IN THE HOUSE (2005/02/12)
リリース情報 : Joey Negro / The Trip (2004/03/13)
リリース情報 : V.A / Joey Negro Presents Soul Of Disco (2005/05/25)
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