HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Jerome Sydenam

NYのレーベルの中でも指折りの成功を収めてきたIbadan Records。最近では 10inch シリーズに代表されるテッキーなサウンドも大好評でますます目の離せない存在に。NY ハウスファンに絶対的な支持を受け、信頼できるレーベルとしての地位を確立させたのがレーベル・オーナーの Jerome Sydenham である。アンダーグランドなダンス・ミュージック・レーベルの運営は厳しいと言われている中、Ibadanが10年にもわたりシーンの第一線を走り続けているのも彼の音楽に対する姿勢や時代の流れを敏感に察知する能力の表れであろう。

プロデューサーとしても精力的に活動し、最近の Dennis Ferrer との共作である"Sandcastles"ではジャンルを超えた大ヒットとなり、アーティストとしての真価を改めて世の中に証明した。今回 Ibadan Records 10周年のワールドツアーの一環で来日した彼にインタビューを決行。和やかな雰囲気で行われ、彼の人柄もうかがい知ることのできたインタビューとなった。

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> Interview & Translation : Eri Nishikami _ Introduction : Masashi Kitagawa

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HigherFrequency (HRFQ) : 先ずはレーベル10周年おめでとうございます。

Jerome Sydenam : サンキュー。

HRFQ : レーベルの運営は簡単な事ではないと思いますが、ハウスミュージックの中でもベスト・レーベルとしての位置付けをこれまで保つ事が出来た最大の理由は何だとおもいますか?

Jerome : そんな風に言ってもらえて本当にありがたいね。でも、一番の理由はシンプルであることかな。小さな会社だからやっぱり音楽のクオリティっていうのが一番重要なことだと思ってて、どんなに進歩したかっていうのはそれほど重要ではないんだ。とにかくクオリティにフォーカスする事で何かが繋がっていけばいいと思うしね。一つ一つを大切に作り上げるって言うのが僕たちのフォーカスなんだ。

HRFQ : たくさんのハイクオリティーなトラックをお持ちだと思いますが今お気に入りのトラックは?

Jerome : そうだねえ、今好きなトラック...。ま、自分でプロデュースした曲だけど "Sand Castles" は外せないね。あと、"Espirito du Tempo" って曲も好きだな。でも、お気に入りのトラックって結構たくさんあるからな。どれか選んでって言われても難しいよ。

HRFQ : ダンス・ミュージック・レーベルとしての IBADAN のポジションは、どのようなものだと思いますか?

Jerome : 僕は IBADAN をブティックレーベルっていうか、ファミリービジネス的にとらえていて、音楽が好きだからやってるんだよ。だから何か役割をもってやってるとは感じないね。自分達の為にやってるから、誰かの為にとか何かの為にやってるって感覚じゃないんだ。僕たちの役割はただ一つ。スタジオに入っていい音楽を作ってリリースする。ただそれだけ。それを気に入ってくれる人がいて、そのお陰でビジネスが続けられればいいなと思うね。

HRFQ : 今回のツアーはどんな感じですか?

Jerome : まだまだ終わらないよ。つい最近はシンガポールとかバンコクとかプーケットなどを回るアジア・ツアーに行ってたんだ。東京に来る前には、静岡にも行ったよ。でも、今回は連続したジャパン・ツアーといった感じではなくて、と言うのも、来週はベルギーのブリュッセルに行って、ロンドンとパリとか、あとギリシャやイタリアにも行く予定なんだ。で、多分途中で一旦 NY に戻っていくつかリミックスと、オリジナル作品のプロデュースを終わらせないといけないと思う。それが終わったらまたツアーに戻って、って感じだから、ずっとツアーに出てるわけではないんだよね。

HRFQ : どこでプレイするのが一番好きですか?あ、日本じゃなくて大丈夫ですよ!

Jerome : (笑) そうだなあ、とにかく旅をするのが好きだし、世界中どこでも好きだけど、LA の DEEP で Marcus Wiatt とやったパーティーはホントに最高だったなあ。Function One っていうサウンド・システムを入れた新しいクラブだったんだけど、やっぱり音とクラウドの良いクラブっていうのは最高だよね。もちろん、イエローもいつもいい。あそこはいつも凄く楽しいクラブだよ。あと、モスクワは色々新しいことが起こってるって意味でもエキサイティングだし、NY はもちろん地元のクラウドで盛り上がるね。

Jerome Sydenham Interview

HRFQ : 今回イエローでのプレイは、いつもと比べてエレクトロよりな選曲だったと聞きましたが...

Jerome : 先ず、僕は音楽そのものが好きだってことを、もう一度言っておかないとね。だから、かなり幅広いレコードのコレクションを持ってるし、聴く音楽も本当にたくさんある。確かに、メインでやってるのはハウスかもしれないけど、だからと言って、何か一つのスタイルに制限される必要はないと思うんだ。もちろんハウスはベースにはなっているけど、他のエレクトロニック系のサウンドでも、最近は結構いいのが出てるからね。特に、Matthew Johnson とか Henrick Schwartz なんかの新しいプロデューサーには注目してるんだ。あと、デトロイト系はいつだって間違いないし、それにアフロ、正統派ハウス、ヴォーカルモノなんかをちょっとずつ混ぜていくって感じかな。でも、ジャンルごとの違いって意外となくて、違う音だって思われてるかもしれないけど、一緒になると意外とつながるんだよね。それに、はっきり言って、一つのジャンルだけでカバーするって言うのは無理があるんだ。ヴォーカルハウスだろうが何ハウスだろうがね。一つのジャンルに固執したらそのセットの半分はきっとどうしようもないものになっちゃうし、そのジャンルだけで一晩中続けるほど十分な作品が揃っているジャンルはないと思うんだ。だから常にレコード屋はチェックして、自分のスタイルに合うものを探す事は大切だと思うよ。

HRFQ : 何か注目しているジャンルってありますか?

Jerome : ジャンルっていうより、あくまでトラック・ベースって感じかな。ハウスにしろテック・ハウスにしろ、ここに来て結構いいのが出てるしね。ここ何年かは、状況が特に良くなかったと思うんだけど、だからこそ "Sandcastle" みたいな曲でも目立つことが出来たっていうのはあると思うんだよ。もちろん本当にいい曲だとは思うけど、普通ならもっと激しい競争があるだろうし、ここまで目立つことはなかったんじゃないかってことで。確かに、クオリティ低い音楽っていうのもたくさんあって、ここ何年かはそういうゴミみたいな音楽のせいで、パイプが詰まってるって状態だったと思うんだ。でも、ここ最近良い音楽を作ろうとする人も増えたし、状況は変わってきてるんじゃないかな。だから、良い感じだと思うし、皆が色んな音楽をプレーするようになって、また持ち直してるんじゃない?少なくとも、僕はそう感じるけどね。だからかなりエキサイトしてるし、これからが結構楽しみだね。

HRFQ : 新しいアルバム" explosive high fidelity sound "のコンセプトは?

Jerome : 自分の今を表してるっていうか、パーソナルなものっていうか…。でも、ミックスCDってホントに難しいんだよ。だって1時間10分程で自分を表現するなんてできないでしょ?だから正直あんまり好きではないんだけど、今回のCDに関しては、出来上がったのを聴くと良い感じのフローが出来ていて、色んなスタイルを取り入れることも出来たから良かったと思う。いやぁ、でもミックスCDは難しいよ。何か面白いことをしようと思うと、上手く流れを作るのが余計大変になるしさ。まあ、基本的に今回のアルバムは、僕自身が今どこにいるかっていうことを表したアルバムだといえるかな。

HRFQ : クリエーターとして Kerri Chandler や Demalicious 等のプロデューサーと一緒に仕事をされていると思いますが、トラックをプロデュースするときのあなたの役割はどのようなものですか?

Jerome : 大抵は共同制作なんだけど、Kerri と僕が特に一緒にやって上手く行く理由の一つに、まず、僕が確固たるアイデアを出す役割で、Kerri は最高のプログラマーでありキーボード・プレーヤーということがある。彼は、もちろん素晴らしいプロデューサーでもあるんだけどね。でも、やっぱりこれだけダンスミュージックに貢献している人と一緒に仕事が出来るって言うのは、何をおいても最高の名誉だし、もちろんそういう意味でも彼と一緒にやるのは最高なんだよね。とにかく、一緒にやってて楽しいんだ。基本的に、僕は自分の考えを的確に彼に伝える。彼のプログラミングは完璧だからね。で、Kerri は僕の事を良いアレンジャーって言ってくれる。だから、プログラミング対アレンジメントっていうのかな。その二つを注意深くブレンドしたら、大抵いいものが出来上がるんだ。特にお互いに考えていること事を読むことが出来た時はね。Dennis にも同じことが言えるんだ。彼は素晴らしいプロデューサーであり、技術的にも天才。皆がそれぞれに考えたことを持ち寄って、それを踏みにじったりする人もいないしね。ただ、僕一人でトラックを作るとしたら、凄くアコースティックなものになるだろうね。楽器も生で入れてって感じで。だから、僕はプロデューサーとしてはオールド・スクール的なのかもしれないね。ミュージシャンを雇って、何をプレイしたらいいのか伝えて、それをアレンジしてミックスするってスタイルさ。それに、コンピューターもそんなに得意じゃないしな。ま、今勉強中なんだけどね。だから、今は技術のエキスパートと僕のオールドスクール魂のコンビネーションで作品を作っているって感じかな。エレクトロニクスとアコースティックを融合させるやり方が好きなんだ。

Jerome Sydenham Interview

HRFQ : 今後自分で全てプロデュースしていこうと思いますか?

Jerome : 実際、今やってるアルバムは自分でプロデュースしてるけど、ミュージシャンを使ってライブでやるのって結構お金がかかっちゃうんだよ。だから、そう、それは来年の目標かな。あと、今 Hiroshi Watanabe と一緒に "32PROJECT" ってアルバムを作ってるよ。

HRFQ : だれか他に一緒に仕事をしたいプロデューサーは?

Jerome : 実は今、Dennis Ferrer ともアルバムを制作していて、これはアフリカン・エレクトロ的アルバムになると思うんだけど、それに最低もう一年はかかるから、それが終わったら次に誰とやるのか考えようと思ってるんだ。スウェーデンの Mickey、D-malicious ともあと何曲かやることになってるし、多分アルバムもリリースすることになると思う。とにかく、一緒にやりたいプロデューサーが多すぎて…。もう古くからの友達だけど Roger Sanchez ともやりたいしなぁ。ただ、あまり在り来たりなものはやりたくないね。やっぱり何か「面白い」って思える事がしたいから。

HRFQ : Hiroshi Watanabe とアルバムをやってるとおっしゃいましたが、あの短期間にどうやって仕上げたんですか?

Jerome : 僕はいつもそんな感じなんだけど、彼も技術に関しては素晴らしいし、スタジオでのコミュニケーションもちゃんと取れたからかな。実際トラック一つ作るのに一日しかかからなくて、しかも良いのが出来たし。彼と仕事するのは初めてだったけど、お互いに何をしたいのか、スタジオに入ったとたん理解しあえたんよ。だから後はアイデアを出す、実行する。この繰り返しだけさ。その意味で、完璧なフローだったね。

HRFQ : やっぱり誰と一緒にやるかって大事ですよね。

Jerome : それはホントにそうだね。パーソナリティは重要なことで、技術より、その人とどう繋がれるかって方が大切なんだ。フィーリングと、あと明確さ。クリアでシンプルなディレクションとちゃんと言葉に出来るイマジネーションを持つって言う事かな。誰かと一緒に仕事をする上で一番大切なのは、自分が何をやってるかをちゃんと理解することだと思う。でも逆に、さっさと片付けるのも好きで、トラック一つに3日以上かけることはないかな。2日でトラックを作って、3日目でミックスするっていう...。それより長いってことは、大抵その曲がダメだってことでしょ。まぁ、もちろん皆やり方はそれぞれだけど、ぼくは一週間たっても何も進まなければ、もういいやって感じ。

HRFQ : レーベルとしての IBADAN と、クリエーターとしてのご自身の今後について聞かせてください。

Jerome : 別に特別なことは考えてないね。サブ・レーベルもあるけど、とにかく前に進むことかな。何か良い考えが浮かんだら、即スタジオに入って作ってみる。出来たら市場に出す。ただ、ぼく達のコミュニティって小さいし、ビジネスとして一番問題なのは、どうやってCDの市場を刺激するかってことかな。クリエイティブ方面ではとにかく自由に、これまでと同じスタンスで続けること。誰に対しても何に対してもプレッシャーを感じることなく、マーケットが上向きになればそれに乗っかって自分達ももっと色々できればいいと思うし、経済状況があまりよくないなら、それに逆らわずにおとなしくしてる。とにかく、前進する。それだけだよ。

HRFQ : 最後に、あなたにとって音楽とは?

Jerome : 音楽はぼくの人生。それ以外の何ものでもないね。

End of the interview

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