弱冠12才でDJに目覚め、’80年代から本格的にダンスミュージック・シーンの中でアーティストとしてのキャリアを開始。様々な名義での活動を経て一時はポップミュージックの世界に足を踏み入れるも、現行テクノ・シーンの最前線へと帰ってきた超ベテランアーティスト Jens Zimmermann。現在はホームレーベルの Snork Enterprises を中心に良質なディープ・ミニマル・トラックを次々とリリース。そのクオリティの高さからトップ・アーティストによるプレイ・サポートを受け、今や世界中から絶大な支持を集めている。昨年の WIRE08 で待望の初来日を果たし、激渋なプレイでクラウドを大いに沸かせてくれた彼が再び日本へ帰ってくるとあってインタビューを決行。アーティストとして今に至るまでの様々な経験や音に対するこだわり、日本のシーンについてなど、彼の音にも通ずるような、とてもディープな話を聞くことができた。
Interview & Introduction : Midori Hayakawa (HigherFrequency)
Translation : Shogo Yuzen
Thanks : root & branch
HRFQ : あなたの音楽的なバック・グラウンドを教えて下さい。
J.Z (Jens Zimmermann) : 12歳の頃にレコードを買って、両親のレコードプレイヤーにピッチを変える機材を付けて曲をミックスし始めたんだ。僕の祖父は60年前にフランクフルトで最初の電機店を始めた人なんだけど、今もうちの家族がその店を経営していることもあって、電子機器が溢れかえった環境で育ったんだよ。父はドイツのテレビ局で働いていたんだけど、特に電子回路とかコンピューター技術に詳しくてね。僕が手作りで組み立てた機械について質問するといつも熱弁してくれたよ。
実際に曲を作り始めたのは16歳の時だったね。その頃に使っていた機材は Commodore C64 とサンプルモジュールだった。影響を受けたアーティストは Karftwerk, Visage, Ultravox, Depeche Mode だね。他にもこのジャンルに関わっているたくさんのアーティストから影響を受けたね。
HRFQ : ’80年代から様々な名義で活躍されていますが…その頃から比べると随分音が変化しているように思います。 Jens Zimmermann としての今のような音になったきっかけや心境の変化などはあったのですか?
J.Z : 始めに僕は親友でありパートナーでもあった、Thorsten Fenslau と一緒に初期のユーロ・ダンスミュージックのプロジェクトに参加したんだ。その頃に Thorsten のDJとしてのベースでもあった Frankfurts 空港の近くにある Dorian Grey っていう有名なクラブのためにプログレッシブ・ダブの音楽を作り始めた。徐々に僕達は音楽で成功していって、気がついたらクラブ・テイストの「ポップミュージック」を作るようになってたんだ。だけど、それは僕の夢じゃなかった。商業的なプレッシャーから僕は Thorsten と一緒に音楽を作ることを辞めて自分の道を歩むことにしたんだ。その数ヵ月後、Thorsten はあの頃の僕たちが想像さえもしなかった世界1位のヒットを生み出した。だけど、その一週間後に彼は交通事故で亡くなってしまったんだよ。
僕にとって彼の事故はとても考えさせられるきっかけだったね。
HRFQ : あなたのトラックはアナログ・サウンドが印象的ですが、楽曲制作においてどのような機材を使っていますか?
J.Z : 最初はほとんどソフトウェアのシンセサイザーとプラグインの音を使って音楽を作ってたんだけど、それにも飽き始めてどんどんアナログの音を使うようになっていったんだ。その時に何年も倉庫に放置されていたアナログのコンソールを再起動したんだけど、全部のツマミを掃除して、電気が流れるようにするまでには丸一週間かかったね。
最近ではドイツの有名な会社のアナログ・モジュールのシンセを集め始めたよ。
まだその作業は終わっていないし、モジュールの構造上きっと終わることはないと思う。でもそのおかげで僕のファーストの作品は比べ物にならないほど良くなったと思うよ。
HRFQ : 音に対するあなた独自の「こだわり」とは?
J.Z :
僕は今までにない新しい音楽を作ろうとしてるよ。そして、忘れてはいけないのがグルーヴや瞑想感、そして、音楽のフローだね。 ポップミュージックを作るとやっぱり今あるルールの中で音楽を作る必要性があるよね。だけど、僕はトラックをキャッチーにするためだけに、曲に合わないサンプルやメロディーを使うようなポップミュージックの手法は避けるようにしてるんだ。音楽を作る時に自分自身を驚かせたい。だから僕は制作中に浮かんでくるアイデアについては試す前にあんまり深く考えないようにしてるんだ。深く考えてしまうと、そのアイデアから得られる結果に驚きを覚えられないからね。たまに僕はランダムな回路を使うこともあるんだよ。
曲の仕上がりはDJプレイでかけたいようなものであるべきだと思ってる。つまり、DJ達がミックスしたくなるようなものだね。人によってはそれを理解できずに、完璧に作りこまれた音楽を聴きたいって思うみたいだけど。だから、たまにプロモーションをした時にネガティブな返答が返ってくることもある。「なんでハイハットしか鳴ってないような片面のレコードに8ユーロ50も払わなくちゃいけないんだ?」ってね。もしかしたら彼らは最低でも100個の楽器を使ってるようなレコードを買ったほうがいいのかも知れないね…でも Ricardo Villalobos は僕のトラックを使いこなすDJのいい例だよ。彼はレコードをミックスして、新しいものを直感的に組み合わせることが得意なんだ。そういう意味で彼は真のDJだと呼べるだろうね…
HRFQ : トラック制作において得意とする方法などありますか?エフェクト使いが気になりますが…
J.Z : エフェクトは付け加える音にしか過ぎないと思ってるんだ。僕はシンセとエフェクトの区別もしないようにしてる。楽器や、エフェクト、それ以外の何であろうと15分の間にその音を使って、僕自身を表現できるかどうかが一番肝心だからね。作った曲を聴きながら、これはあんまり聴きたくないなって感じる音は全部曲から外すようにしてるよ。
HRFQ : リミックスも数多く手掛けていますが、あなたが思うその魅力は?
J.Z : .実はリミックスをするのはあんまり好きじゃないんだよね。僕がリミックスしたほとんどの作品はレコード会社の人間に頼まれて作ったものなんだ。僕個人の意見としては、彼らはあまりクリエイティブなプロセスには関わるべきじゃないと思う。彼らはただ僕の名義を使いたいだけに過ぎないしね。
僕がリミックスの仕事をする時は大体お金のためだけにやってるよ。作り方としては、まずオリジナルのトラックに僕の音を足していくところから始めるんだ。そして、最後にオリジナルの音を全部消す。だから僕の手がけた作品はリミックスじゃなくて、僕自身の新しいトラックなんだ。その作業の中でオリジナルの曲の中からたった一かけらでも僕が残したいと思う要素があればいいと思うよ。
レコードレーベルの人たちは時々DJ達がかけないような曲のリミックスを僕に頼んでくる。DJがかけられるような新しいバージョンが欲しいからってね。僕にはそれが理解できないんだ。そんなことするぐらいなら、そもそもなんでオリジナル・バージョンをリリースしたんだろう?って思ってしまうよ。
HRFQ : 今回はDJとして出演するわけですが、ライブもやったりするのですか?
J.Z : うん。だけど、特別な時にしかライブはしないね。今年のライブの予定は2回だけで、それ以上はしないと思う。もしかしたら、1回は日本でやるかもね。僕は100%DJなんだ。だからレコードを買うこと、プレイすること、そして、僕のトラックを組み合わせることが大好きなんだよ。人を躍らせて、一晩だけでも彼らが抱えている問題を忘れられるような時間を提供したい。お客さん、僕のレコード、そして、僕自身の間に生まれる関係はいつも楽しくて、新しいもの。それを毎週末楽しめるのはDJだからね。
HRFQ : 昨年にはWIREへも出演されていましたが、日本に対する印象は?また日本人アーティストへはどのような印象をお持ちですか?
J.Z : あの時、僕はガールフレンドと一緒に初めて日本を訪れたんだけど、日本に行くのが楽しみで旅の前に旅行ガイドの本を読んで日本のことをたくさん調べたんだ。大げさに思うかも知れないけど、僕は日本に行けることを心から嬉しく思ってる。最も僕が見習うべきだと思ったのは日本人の親切さや平和主義なところだね。伝統と発展が混ざり合っているのも日本のとてもユニークなところだと思うよ。何年か前に僕は東洋の哲学や宗教に興味を持って、仏教やヒンズー教、ヨガや瞑想についての本をたくさん読んだんだ。物事の間に関係性を見つけることとか、その他のたくさんの教えは今でも忘れられないぐらい僕にとって新鮮なものだった。
僕もすごく感銘を受けたんだけど、透明なビニール傘とか、「しゃべる」トイレとか、その他の小さなものも西洋のSF作家達を驚かせたんじゃないかな。
後…日本の食べ物には感動したね。日本から自宅に返った時にすぐ味噌汁を作ってみたぐらいだよ。
東京ではいくつかのクラブに遊びに行ったんだけど、世界中の人に会えたことがすごく面白かったね。あんなにたくさんのドイツ人に日本で会うなんて想像もしなかったよ。
日本のアーティストはあんまり詳しくなくて、Minimal-Tokyo Boys と他の数人のアーティストしか知らないかな。
東京ではレコード屋にも足を運んだんだけど、その時は少し残念な気持ちになったね。ヨーロッパの作品はたくさんあるのに、日本人の作品はあんまり置いてなかった。日本で僕は素晴らしいDJをたくさん見たし、日本の音楽にはすごく可能性があると思うんだ。だからもっと日本のアーティスト達は自分達自身に目を向けるべきじゃないかな?僕は日本人アーティストにリスペクトを送るし、今こそ日本人のアーティスト達が世界に羽ばたく時だと思うよ…
HRFQ : 最近、アーティストとしてはどのような生活を送っているのですか?またオフの日などプライベートではどのように時間を過ごしていますか?
J.Z : 1日にたくさんのことをするね。Eメールや Myspace をチェックしたり、請求書を書いたり、僕のガールフレンドのクラウディアに1日10回近く電話したりね。彼女は僕のブッキングもしてくれているし、家のことも色々やってくれているから彼女無くして僕の生活は成り立たないよ。僕と彼女は田舎にある古くて小さな家に住んでいて、4羽の鶏、2匹の猫、小さな池にはたくさんの魚を飼ってるんだ。暖房には薪が必要だから、それも切らなくちゃいけないし、常にやらないといけないことがある。だから日中は音楽を作る時間がないから、大体音楽を作るのは夜中の1時から朝の6時ぐらいにかけてだね。
時々外を散歩して、馬や牛、羊や鳥を眺めたりする。それが僕にとって一番いいリラックスの方法になってるんだ。
HRFQ : 地方や海外でのギグで特に印象深かったのは?
J.Z : 日本は間違いなく1番楽しかった場所だね。だけど、どの国にいってもその度に視野がどんどん広がるよ。場所によって太陽の光が違うのもすごく興味深いと思うし、旅をすればするほどこの地球がどれだけ美しくて、どれだけ不思議な星かを感じさせられるね。
旅をすればするほど、「僕達は一体どこから来て、どこへ行くのか…命の原点は何なのか…?そして、人間は僕達自身からこの星を救うことは可能なのか…?」って自分自身に問いかけるんだ。
HRFQ : 昨年は数多くリリースしていましたが、今年の予定は?
J.Z : 今年のスケジュールはとにかく可能な限りたくさんの音楽を作ること…でもそのための時間を作ることがどんどん難しくなっているんだ。
HRFQ : レーベル運営などは考えていたりしますか?
J.Z : うん…レーベル設立を考えることはあるんだけど、今はベストなタイミングじゃないと思ってるね。
HRFQ : 最後に、来日を待ち望んでいる日本のファンのみなさんにメッセージをお願いします。
J.Z : 1番ホットな新しい音楽をバイナルのレコードでプレイするし、僕の新しいトラックのダブ・レコードもたくさん用意したよ。だけど、特別なものを期待しすぎて、肝心のパーティーを楽しむっていうこと は忘れないで欲しいな。みんなで気持ちをオープンにして、集まって、たくさんの出会いがある楽しいパーティーにしよう。
End of the interview
JENS ZIMMERMANN JAPAN TOUR 2009
2009年3月13日 (Fri) @ CLUB JB'S _ 22:00〜
Door : Y3,000 _ Adv : Y2,500
DJ : Jens Zimmermann (Snork Enterprises, International Freakshow, Treibstoff), Apollo (eleven., Black Cream)
Music : Techno
UBIK featuring JENS ZIMMERMANN
2009年3月14日 (Sat) @ UNIT _ 23:30〜
Door : Y4,000 _ Adv : Y3,500
【UNIT】
DJ :
Jens Zimmermann (Snork Enterprises, International Freakshow, Treibstoff)
DJ Wada (Co-Fusion)
DJ Nobu
【SALOON】
DJ : Minimal Tokyo Lounge feat.
Tatsuya
Ivan Kuzbass
Shu Okuyama (Milnormodern, Minimood)
Valentino De Bronff (Minimood)
Tomostugu Kondo a.k.a. Kon
Tommy
Music : Techno
関連リンク
Jens Zimmermann Myspace Page
CLUB JB'S Official Site
UNIT Official Site