Mathew Jonson、 Mike Shannon らと共にカナダのミニマル・シーンを牽引する実力派アーティスト Jeff Milligan。'01年辺りから自身が主宰する Revolver Canada Recordings をはじめ、ドイツの名門 Background Records などでもハイ・クオリティなミニマル作品をリリース。また、3台のターン・テーブルを駆使した驚異的なDJスタイルも有名で、ここ日本をはじめ世界各国のクラブを飛び回るスター・プレイヤーとしてもおなじみである。ここ最近は Revolver Canada Recordings からのオムニバス・シリーズ 'Recollection Series' の始動や、9月には日本を含めたアジア・ツアーも決定しているなど、シーンにさらなる熱を放ちだした彼に HigherFrequency がインタビューを決行。 Revolver Canada Recordings をはじめ、Richie Hawtin と共に働いた Plus 8 でのエピソード、自身の楽曲制作やDJプレイの際のスタンスなどを非常に深く語ってくれた。
> Interview : Nick Lawrence (HigherFrequency) _ Translator : Ryo Tsutsui (HigherFrequency) _ Introduction : Masanori Matsuo (HigherFrequency)
HigherFrequency (HRFQ) :最近は本当に多くの新しいレーベルが生まれていますが、あなたがレーベルRevolverを始められた1999年と比べて今レーベルをスタートさせることには違いはありますか?
Jeff Milligan : 僕が思うに今は1999年と比べると大きな違いがあると思うよ。インターネットや技術的革新がすすんだことが大きいね。ラップトップでも作品を作れるようになったことで音楽を作るコストが格段に抑えられるようになったことや、リリースやプロモーションがここ数年で格段にやりやすくなったこと。また特に大きな変化といえるのがデジタル・ダウンロード・ストアの存在で、デジタルで配信できるようになったことで楽曲をリリースする初期投資が大幅にカットされて、リスクが減ったことは非常に大きいよ。
ただひとつ欠点としてはレーベルが以前と比べて異常に増えて、クオリティーの低いテクノが大量に出回ってしまって、いいものも埋もれてしまいやすくなってしまったことがあるね。一日に新しいものを聴ける時間は限られているのに、毎日それよりも全然大量のリリースがあるわけだから。昔はカタログが充実すればレーベルの知名度も上がっていったものだけど、今はアーティストも自分でリリースまでおこなえる能力を身に付けてきているし、レーベルの役割は縮小していくんじゃないかな。
HRFQ : ではあなたはそのような中で Revolver を他のレーベルと差別化するためにどのようにされていくつもりですか?
Jeff Milligan : 誤解を恐れずにいうと僕らはそれなりに差別化できてるんじゃないかと考えているんだ。初期にRevolver
からキャリアをスタートして有名になったアーティストが何人もいるし、ただ問題は時間がたつとその歴史も忘れられてしまうということで、最近新しくミニマル・ファンになった人は僕らの歴史を知らないと思うんだ。でも僕はエレクトロニック・ミュージックの産業が新たな変革期を迎えていると考えていて、そのことは前向きに捉えているんだ。皆、何の中身もないような退屈なミニマル・ミュージックには飽き飽きしているし、一方ではレコードのディストリビューターもまた非難されるべきで、ここ数年レコードの売り上げは明らかに落ちてきていることで内容的に冒険しているものをリリースすることが難しくなってきていて、ダンスフロア対応のものしかリリースできないプレッシャーが生まれているけど、それは結果的に音楽をチープにしていると思うよ。たとえばアンビエントだったりエクスペリメンタル・ミュージックなんてどこにいったの?すべては経済的なリスクが高すぎることが原因となってしまっているんだよね。アーティスト達がディストリビューターに気に入られてリリースし続けることができるようにするために、ここまで自分達を型にはめなくてはいけないなんて信じられないよ。僕はレコードのセールスは近い将来、急激な落下を見せると考えているんだ。そしてミュージシャンはリスクの少ないデジタル・リリースでもっと自由な作品をリリースできるようになっていくと思う。そんな中で僕ら
Revolver Canada が考えているのはトレンドに抵抗してどんどん変なものをリリースしていくことなんだ。僕らが初めてAkufenのレコードを作ったとき、当時のディストリビューターはあれが間違いだと思っていて、あのレコードがどのジャンルにも当てはまらなかったから、売れないって言ってたんだから、ハハハ!
HRFQ : あなたが Richie
Hawtin とともに Plus 8 で働いていたころを思い返していただいて、あなたからみた現在の Minus レーベルの知名度はどこから生まれているとお感じになりますか?
Jeff Milligan : うん、まず言っておかなくちゃいけないけど、ぼくらはとくに一緒に働いていたわけじゃないんだ。僕は
Plus 8/ Definitive のために DJ project をやっていたけど、Plus 8 で働いていたわけじゃなかった。トロントで仕事をしていたクルーが Plus
8/ Minus パーティのプロモーションをやっていた関係もあってよく一緒にプレイすることはあったけど。でもそれ以外に一緒に仕事したことはないんだ。
今Minusに関しては5分と置かずだれかがほめるかけなすかしている状況だけどそれは彼らがミニマル・レーベルの基準となっているということだと思うよ。まあ、僕なりに何点か Minus の成功の要因となっているポイントだと思っている点はあるよ。
僕自身あのレーベルのファンだし、Richie Hawtin は僕や当時の Montreal や Detroit の人にとって大きく影響を受けたアーティストだし、僕らカナダのシーンはミニマル・テクノをディープなルーツとして体験していて、更にそこから10年以上たっているわけで、ミニマルという音楽に対する理解は深いと言っていいと思うんだけど、その中で Richie
Hawtin が果たした役割は大きいと思うんだ。とくにここカナダではそうなんだけど、その影響で90年代からミニマルを追求してきたアーティストの多くは追求の果てにまた新たな地平にたどりついている人が多くて、逆に最近のミニマル・ブームには当てはまらない人も多いんだ。でも Minus は多くのミニマル・レーベルよりも前から運営していて、影響力もある。彼らのリリースはスタイル的にはカナダというよりはデトロイトのテクノに近くて、それなりに知名度のあるカナダのプロデューサーの多くはもっとメロディックで音楽的に洗練されたスタイルを好む傾向にあるんだ。皮肉にもその多くのプロデューサーは圧倒的に初期の Plus
8 に影響されているだけどね。Minus の楽曲はスタイル的にマネしやすいスタイルという部分もあるしね。ただ彼らは先駆者なわけだからもっとも人気があって、アクセスしやすい音楽をやっていく特権を持っていると言えるんじゃないかな。多くのレーベルがその後を追って成功しているところもあるしね。それによって質が落ちた部分もあるけどそれは Minus のせいではないよね。そんな中今はどこの街へいっても土曜日の一番いい時間にミニマルがかかっているわけだから。
まあ、他のレーベルと一緒で、Minus のリリースでは好きなものもあるし、そうでないものもあるよ、でも僕が最初からのファンであることには変わりないけどね。
ただアンダーグラウンドのシーンは繊細だから、ビジネス的な観点で力強く引っ張っていくアーティストがいるとなびいてしまうところがあって、僕の意見では Minus の成功は音楽そのものというよりはそういった部分が大きな要因として作用しているんじゃないかなとも考えているんだ。Minus は CocaCola のように大きなブランドで、それぐらい大きければ、何かを良いといえば皆がその情報を信じて、買ってサポートするから結果的に皆いいと思ってしまうというような部分はあるんじゃないかな。
例えば何か大きな会社を引き合いに出すのはネガティブな連想をさせると思うけど、僕はブロッコリーを買うのと音楽を買うのとでは決断を下すにあたって若干違いがあるということをいいたいだけなんだ。本当に音楽好きで知識も深いファンもいるけど、クラブにくる多くの人は平日びっちりと仕事をしていて、週末は休みたい、ゆっくりしたいと思っていると思うんだ。週末ごとに音楽情報通になるんじゃなくてね。そう考えると、どんなレーベルでもいい曲も悪い曲もリリースする可能性があるけど、プロモーションにお金をかけることができればどの曲もそれなりに売れていく可能性があるといえるし、Minus はそのお金を持っているといえるのさ。コーヒーカップとかマウスパッド、スリップマット、シール、Tシャツなんかをたくさん作ってきたし、スリップマットなんかは最低でも10万枚は世界中のどこかのターンテーブルに乗ってるはずなんだから、僕自身おそらくそのうちの1000個以上にレコードを乗せてきたからね。
世の中にすばらしい音楽をリリースしているのにブランディングがよくなかったり、ファッショナブルじゃなかったり、プロモーションのために稼動できる人員がいなかったり、といった理由でほとんど注目されないレーベルがいっぱいあるんだよね。だれでもエジソンは知ってるけど Nikola
Tesla は知らなようにね。
まあおそらくそのうち minimal にも今の反動が来ることもあるだろうし、どんどんそうなっている以上、このジャンルがシンプルで空っぽで、退屈だといわれてもそれは間違っていないということになるだろうし、残念なのは革新的なことをやっているアーティストまでもそこにくくられて苦労するようにになることで、逆に興味深いのはミニマル人気が干上がったときにそれぞれのレーベルが音楽的にどのような方向性を取るのかということだね。
HRFQ : ギグに際してのあなたのリクエストを拝見すると、あなたは高い位置に設置されたDJブースではなくフロアに設置されたブースを希望されていますが、あなたにとってオーディエンスと近距離でプレイするということはどの程度重要ですか?
Jeff Milligan : 僕がもっとも重要だと思っているのはオーディエンスや次世代のミュージシャンやDJにこのアートフォームを少しでも進化させるような何かを見せることで、スーパースターDJが高い位置のDJブースを好むのは半分は彼らがそれほどの才能を持ち合わせていなくてそれをオーディエンスに知られたくないからだと思うよ。本来オーディエンスはどのようなパフォーマンスをしているのか見ることができて、ミキシングやどのように音楽が組み立てられているのかを見ることができてしかるべきだと思うんだ。本来自分ではできないような磨き上げられた技術を見るのは楽しいはずで、だからDJブースはお客さんの近くの方が好ましいと思うんだ。
僕はいつもこの例を出すんだけどロックコンサートへいって前に塀が立てられていて、プレイヤーの頭しか見えなかったら楽しくないだろう?オーディエンスは本来ある意味でマニア的であってしかるべきだと思うし、マニアはよくない意味で使われることが多いけどそれは古い考えだと思うよ。お客さんが何がプレイされているのかを知ることができて、あとからその曲を購入することができれば、それがオーディエンスを教育することにもなるし、経済的にもこの小さなエレクトロニック・ミュージック・シーンが活性化することにもつながると思うんだ。それに近い方がオーディエンスのエネルギーを感じることができるし、僕なんかはよくだれかひとりをピックアップしてその人の反応に合わせてセットを展開していたりするよ。
HRFQ : あなたは作曲されるときもDJを通して経験された技術的な進化を意識されますか?またレーベルのアーティストにそういったことを要求されますか?
Jeff Milligan : もちろん意識するよ。テクノとは本来そういうものだろう?ただ他のアーティストにそういったことを要求することはまったくないよ。僕は他のアーティストのクリエイティブなプロセスには100%口を挟まないことにしているから。好きなら好き嫌いなら嫌いということにしている。何か言うとしてもそれはアドバイスを求められたときだけだね。
HRFQ : あなたは3枚や時には4枚がけをされることで有名ですが、コンピューターを使用して、更に多くの曲をいっぺんに演奏することに興味をもたれているのではないですか?
Jeff Milligan : もちろん!僕は Serato SL をベータバージョンの時から使っているし、今は Serato では2枚までしかコントロールできないからしょうがなく更に2枚アナログを使うけど、Serato 内で4枚扱えるようになったら喜んでレコードとはおさらばするよ。無駄な紙、無駄な油、飛行機の重量オーバー、全てから開放されるんだ。レコードは好きだけどあれだけかさばるものは単純に必要ないと思うよ。以前はコンピューターでできることの範囲が狭かったり、安定してなかったりしたけど、今はそうじゃないし、確かにレコードは信頼感があるけどレコードにも限界があるのは事実だよね。例えば僕はデジタルでしかリリースされていない楽曲とか、スタジオワーク、リ・エディットとかデジタルでないと扱えないものを Serato SL で扱うけど、つまりそれはレコードの代わりということではなくてパフォーマンスの幅を広げるツールとして機能しているってことなんだよ。
HigherFrequency (HRFQ) : あなたは最近 Revolver で Mitsuaki Komamura という日本人アーティストとサインされましたね。また一番新しいリリースでも Akiko Kiyama のリミックスがフューチャーされていました。あなたにとって日本のダンスミュージックのどこが魅力ですか?
Jeff Milligan : ここ数年、頻繁に日本を訪れるチャンスがあってね。彼ら日本人アーティストと仲良くなって、彼らの考え方や進歩の様をみていて、彼らの中には本来もっと成功してもおかしくないタレントがいることを知ったんだ。日本のシーンが本来持っているポテンシャルほど世界の音楽シーンに対して影響力を持っていないのは単純に距離や言語の問題が大きい気がするよ。日本はエレクトロニックミュージック・ビジネスに関してヨーロッパやアメリカと比べて明らかに不利だと思う。僕らは Revolver Canada がスタートしたときの Canada がそうであったようにまだ日の目を見ていないシーンにフォーカスしようと思うんだ。日本人アーティスト達は独特の才能を持ち合わせていると思うし、ミックスやDJテクニックに関しては他に並ぶところがないぐらい発達していると思う、それにDJブースは世界で一番だと思うよ。
HRFQ : 最近あなたは日本で発売される着信音もプロデュースされましたが、それは楽しみのためにやったものですか?それともあなたが作るほかの音楽のように真剣に取り組んだものですか?
Jeff Milligan : 僕は着信音も作曲と同じように真剣に取り組んだよ。着信音が面白いのはそれが短くて、制限があるところさ。僕が思うに着信音業界はまだいろいろな意味で原始的で、基本的な考え方としては好きな曲の音質を悪くした引用でしかないと思う。本来、着信音は検討するべき基準があると思うんだけど、それは聴き取れなくてはいけないし、耳障り過ぎてもいけないということだと思うんだ。着信音を作っているときはその電話機本体の周波数帯を考えなくてはいけないし、世の中は様々なリズムがあふれているから、ディレイやリバーブを駆使して、ある周波数帯や音色が、たとえどこにいても耳に入ってくるようにデザインしなくてはならない。僕の作った着信音はいかにも midi といった感じで低音質に作られてる例えば Black Eyed Peas song や Crazy Frog の着信なんかよりずっと皆の注意をひきつけると思うよ。ちなみにr.fmというところから僕が作ったいくつかの着信音が発売されるんだ。
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