まだブレイクスが本当に小さなシーンだった頃からこのサウンドにこだわり続け、最近の大きな流れの中で一気にシーンのトップに躍り出たMike TrumanとChris Healingsの二人からなるユニットHybrid。美しいオーケストラ・サウンドとブレイクビーツが見事に融合した99年のデビュー作「Wider Angel」が全世界で10万枚ものセールスを記録することで注目された彼らは、その後Mobyの全米ツアーへの参加や、RadioheadやAlanis Morisetteといったアーティストのリミックスを手がけることによって、現在のブレイクス・シーンの隆盛に大きな役割を果たしてきたと言われている。昨年リリースしたセカンド・アルバム「Morning Sci-fi」もデビュー作同様に高い評価を受け、2004年に入ると映画「マン・オン・ファイヤー」のサントラも手がけるなど、ハリウッドからも注目を受けつつあるHybridの二人が、6月11日、新木場のageHa@Studio Coastにて来日公演を行い、日本のブレイクス・ファンを大いに熱狂させてくれた。そんな彼らにHigherFrequencyが公演を前にインタビューを実施。オーケストラとの共同制作のこと、現在の制作活動の近況などについて話を聞いた。
> Interview & Photo : Jim Champion _ Translation & Introduction : H.Nakamura (HigherFrequency)
HigherFrequency (以下HRFQ) : 来日は初めてですか?
Mike Truman : 今回で3度目かな。最初に来たのは99年のフジ・ロック・フェスティバルで、2回目が2001年。だから、もう3年も来てなかった事になるね。
HRFQ : 日本についての印象はどうですか?
Mike : スゴクいいね。ロンドンなんかと比べても全く違うし、こっちの方がよりお行儀がいい感じがするな。
Chris : この国の方がずっと綺麗な感じだね。まだ、ホテルの窓からしか外を眺めてないんだけど。まだ探検するチャンスが無くてね。明日はあちこち見て周ってみようと思っているんだ。
HRFQ : もう何年もブレイクスのシーンを引っ張ってこられた訳ですが、最近の盛り上がりを見てどう思われますか?
Mike : ブレイクスのレコードを作り始めてから、かれこれ10年近くになるんだけど、いろんなアップ・ダウンがあったのは確かだね。僕らが99年に最初のアルバムをリリースした時は、丁度イギリスのシーンが大復活を遂げていた時期で、僕らもその流れにうまく乗ることが出来たんだ。多分、Creamやその他の大きなクラブで最初にブレイクスをプレイしたのは僕らだったんじゃないかな。でも、昔はどちらかと言うと、ハウスのセットを中心にプレイしながら、時々ブレイクスをドロップするような流れでセットを組む必要があって、ブレイクスをかけるとフロアが引いて、ハウスをかけると戻ってきてチャラみたいな感じだった事を覚えているよ。それに比べると、今はブレイクスに対する関心が高くなっているし、ある種の絶頂期にあると言って良いんじゃないかな。まぁ、いずれその勢いも無くなって、また、しばらくしたら盛り返してくるみたいな事を繰り返すんだろうけどね。
Chris : ブレイクスに関して一つ言えるのは、今までもずっと存在していたって事だね。ジャングルみたいに、ずっとアンダーグラウンドなサウンドとしてシーンに根付いてきたと思うんだ。Mikeが今言ったみたいに、コマーシャル・ミュージック的な観点から言うとアップダウンを繰り返しているけどね。
Mike : このサウンド自身は、90年代初期のレイブ・カルチャーから生まれてきたもので、僕らが影響を受けたのも、ドラムン・ベースやテクノと言ったカテゴリーに細分化される前の音楽なんだ。その意味で、僕らは本当に長い間このサウンドに没頭している事になるんだけど、こうやってシーンが盛り上がっているのを見るは気持ちがいいね。特にSashaの新譜"Involver"の2/3がブレイクスだったり、Tiestoがブレイクスをプレイしているのを見たりすると尚更そう思うよ。昔は、メインのDJがフロントにいて、僕らみたいな連中はどちらかと言うとサブ・フロアーで回すことが多かったんだけど、今では、Freq NastyやPlump DJs、Stanton Warriorsと言った連中もメインルームでプレイをするようになったからね。
HRFQ : 最近イギリスでは、スーパークラブの時代が終わりを告げ、みんな小さなクラブへ回帰する変化が起こっていると聞きましたが、これはポジティブな事だと思いますか?
Chris : 間違いなくポジティブなことだと思う。ダンス・ミュージック・シーンの後退というのは、ある意味で功罪あわせ持った事だからね。例えば、Creamみたいなクラブが、Paul OakenfoldやJudge Jules、それにTiestoと言った超ビッグネームのブッキングを毎週やるようになって、入場料で30ポンド(約6,000円)を取るようになった。30ポンドだよ!しかも、入場する時には色々と調べられて、おまけに中に入ってもかなり荒れた雰囲気しか体験できない・・・別にフーリガン的な荒れ方と言うわけじゃないんだけど、ただみんな音楽を楽しみに来ているわけじゃなくて、ビッグネームに釣られて来ているだけって感じになってしまった。それが今ではサブ・フロア的な小さなイベントに多くの人が集まるようになったんだから、これはポジティブな事だと思うよ。今まで僕らがイギリスでやったイベントの中で、ロンドンにあるFabricという2,000人キャパのクラブでやったのが一番大きかったんだけど、Urban GorillaやTangledといったような小さなブレイクス向けのクラブのプレイもホント楽しいからね。4〜500人のお客が目の前にいて、ブースとお客さんとの距離も近いって感じで、殆どパブみたいな雰囲気と言ってもいいんじゃないかな。
Mike : みんな気付いてきたんじゃないかな。30ポンドも払わされて、実は家畜のように扱われているって事をね。それに小さなクラブで面白いパーティーがあったら、そっちの方が良いわけでしょ。DJにも近いし、動きも良く見えるし。大きいクラブだと、いい雰囲気を作るのはなかなか難しいし、それに彼らは少し貪欲になりすぎて、お金にばかり走っているところがあると思うんだ。客を詰め込んで、ビッグネームをブッキングして、大金を払わして、「ハイ毎度あり」って感じでね。でも、みんなそれに気付かないほど馬鹿じゃないし、結局彼らは自分で自分の首を絞めることになったと言うわけさ。
HRFQ : さて、ここらでお二人の楽曲制作についてお話を伺いますが、最近ハリウッド映画「Man on fire」のサントラを制作されたそうですね。全ての曲を作曲されたのですか?
Chris : いや、今回は映画のサウンド・コンポーザーであるHarry Gretton Williamsと一緒に仕事をしただけなんだ。元々、彼は僕らの活動に興味をもってくれていたみたいで、ライブに来たり、僕らのオリジナルやリミックスを聴いたりしてくれてね。それで、「自分がいつもやっている事に新鮮なアイデアを持ち込みたい」と言う考えで僕らに声をかけてきたんだ。実際に制作した楽曲は10曲だったんだけど、そのうち4曲が完全な形、残りは一部分が所々で使われて、思った以上にたくさん使ってもらったって感じかな。
HRFQ : その他にはどのような活動が予定されていますか?
Mike : 今年は初めてのコンピレーションCDを出してみようと思っているんだ。今までやった事がなかったからね。今回の制作に関しては、全くのゼロから始めてみようと考えていて、今丁度、僕らの好きなプロデューサーに電話をかけまくって、このコンピの為に新曲かあるいはエクスクルーシブなトラックを提供してもらえるように掛け合っているところなんだ。最終的には、それらにエフェクト・サウンドをちょっと加えたりして、74分のノンストップの作品に仕上げる事になると思うよ。あと、僕らにとっては3枚目になる次のアルバムの制作もやっている。もう3枚目にもなるって言うのが信じられないけどね。それから、幾つかのインディ系映画のサントラも手がけてみたいと思っているんだ。その方が何の制限もなく、自分達が思ったとおりにシーンに合わせた音楽を作っていけるからね。ハリウッドの映画のシステムの中では、やるべき事に対して明確な指示がいつもあるんだけど、その分どうしても自由度が少なくなってしまうでしょ。その点、インディ・フィルムは自由度も高いし、自分達の思ったとおりの事がやっていけるからやりがいがあるんだ。そしてもう一つは、リミックス・アルバム。3年前に1枚出した事があるんだけど、今その2枚目を制作しているところだ。このアルバムは2枚組になる予定で、1枚目にはここ3年間に僕らがThe Orb、Uncle、Satoshi Tomiie、John Creamerなんかに提供したベスト・リミックスが、2枚目には、このあいだ12ピースのストリングス・セクションをフィーチャーしてやったBBC Radio 1でのライブ・ショーの模様が収録される事になっているよ。
HRFQ : 前回のアルバムでロシアのエルミタージュ・オーケストラを大々的にフィーチャーされていましたよね。
Mike:デビュー作品ではロシアン・フェデラル・オーケストラだったけど、前作ではそうだね。実際にモスクワに出かけていって、そこでレコーディングを行ってきたんだ。でも、エルミタージュ・オーケストラの方が随分と良かったかな。たった24人のプレイヤーしかいなかったんだけど、いずれも素晴らしい演奏者ばかりで、僕らが欲しかったものがスグに出てくる感じだったし。やっぱりオーケストラから得られる独特のサウンドって他と比べようがないでしょ。だから、またいつか東欧に出かけていってレコーディングをしたいと思っているんだ。で、そこで録って来たサウンドをリアクターか何かで歪めたりして・・・。ちょっとドギツイような事を色々やってみたいね。
HRFQ : 前作「Morning Sci-fi」のアートワークがとても美しかったのが印象に残っているのですが、実際にアートワークにはどの程度関わっていらっしゃるのですか?
Chris : あの写真は全部ウエールズで撮ったもので、撮影自体はFabricなんかとも仕事をしているクールな会社が手がけたものなんだ。本当にいい写真ばかりで、僕らが求めていた通りのものだったね。
Mike : 実際の作業では、その会社と密にリレーションを取りながら、彼らが数多く見せてくれた写真の中からあの1枚を選んでいったんだ。実際、あのジャケットで使われている写真は、一切フォトショップとかを使ってなくて、あの背後にかかっている虹も合成ではなく完全に自然の風景なんだよね。何だかピンク・フロイドのアートワークみたいでカッコいいでしょ。
HRFQ : 次のアルバムの制作は既に始まっていますか?
Mike : 今のところ5曲が仕上がったかな。最近では、映画の宣伝用トレイラーの仕事なんかも始めていて、映画では実際に使われないんだけど、ハリウッドの人達用に制作したショートトラックが山ほど手もとにあったりするんだ。で、それをそのままにしておくのも勿体無いって事で、残りの部分を制作してアルバムに収録できるレベルにまで持って行って・・・。まぁ、そんな感じで今のところ5曲までが完成したってところかな。サウンドの傾向としては、かつて僕らが3ピースのエレクトロニック・バンドとしてライブを行っていた頃のノリに戻っていて、それが今回では9人編成のライブセットになっているって感じ。Adamっていうギタリスト兼ボーカリストと、ベーシストのTim、ドラマーのAlex、そして僕とMikeっていう編成で、ライブ的な要素を盛り込みながら、更にアルバムの内容を煮詰めていく事になると思うよ。もっとバンドっぽいと言うか、今の僕らよりもっと「ボーイバンド」的な感じでね。まぁ、どちらかと言うと、「オールドマン・バンド」って言うべきかも知れないけど(笑)。
HRFQ : アジアのファンに何かメッセージはありますか?
Chris : アジアには出来るだけ来るようにしようと計画しているところで、8月に関しても何かそう言う話があるみたいで、今、調整している所なんだ。正直なところ、アメリカでのツアーに忙しすぎた事もあって、アジアを今までちょっとおろそかにしていた所もあったからね。でも、もうアメリカには飽きちゃったし、今後6ヶ月の間に再び来日する機会があると思うよ。
Mike : 出来れば、今度はバンド全員で来たいものだね。
End of the interview
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