HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Dominik Eulberg

2002年にデビューして以来、ソウルフルなドラムンベースでイギリスのダンスチャートを席巻している High Contrast ことリンカーン・バレット。“ドラムン界の DJ シャドウ” とも評される Hospital Recordsの天才クリエーターである彼が日本ツアーを行った。時代の代表的なアーティストだけが選ばれる Essential Mix で見事 Mix of the Year を獲得し、ロンドン屈指のスーパークラブ Fabric のレジデントとして活躍する彼は FabricLiveシリーズの MixCD も手掛けている。HIP HOPや映画の影響を受けた、独自のサンプリング・センスとサウンドの核心に迫る。

> Interview & Text : Naobumi Sato / Chiyo Hiramatsu

triangle

Q : あなたのバックグランドを教えてください。どんなきっかけで音楽の制作を始めたのですか。

High Contrast (HC) : 僕の親は主に50年代のロックを聞いてたね。僕はあまり好きじゃなかったから10代の頃は音楽より映画に興味を持ってたんだよ。だけど17歳ぐらいの時にジャングルを聞いて虜になった。そんな時に雑誌の付録だった Cubase の評価版に「これを使えばジャングルが作れる」って書いてあったんだ。それでとりあえずやってみようと思って始めたんだ。大学に入学したばかりだったから、96年か97年だったよ。まわりに詳しい人もいなかったからとりあえずネットからいろいろダウンロードしてジャングルのサウンドの作り方を勉強したんだ。夢中になったね。

Q : 曲を製作するにあたってはどういったプロセスで行うんですか?どのようなサウンドに影響されますか?

HC : 僕はいろんなスタイルの音楽を聴くようにしているんだ。そうやっていろんな音楽を聴いているうちに気に入ったサンプルが飛び出してくることがあるんだよね。それを見つけると僕はそのサウンドを再現しようとするんだ。でも作ってるうちにだんだんサウンドが変わっていって、全く新しいものが生まれたりする。友達に「このサウンドを再現してみたんだ。」って聞いてもらうんだけど、全然違うって言われる事が多いよ(笑)。

ドラムンベースの特徴はキャパシティーが大きくて自由なサウンドだってことだよね。他のジャンルと比べてこれがドラムンベースサウンドだ、というものは無いし。ビートのベースがあってその上に他の音楽からの要素を取り入れられるのが面白いよ。テクノとかレゲエとかではそのジャンルの決まったサウンドがあると思うんだ。ドラムンベースだといろんな音楽の好きな要素を組み込めるのが大好きだな。

Q : “tough guys don’t dance” は何かコンセプトを描いてからまとめたんですか?

HC : 最初の2つのアルバム製作を経験して、コンセプトを描いてからそれに当てはまる曲を作っていくのは間違っているってわかったんだ。曲を作っていくどうしても途中で違う影響を受けたり、考え方が変わってくるしね。始める前に自分で制限をかけちゃうと、どうしても曲を無理やりコンセプトに合わせちゃう事になっちゃうんだよ。今回は曲を作ってから考えたからコンセプトは自然に見えてきたね。今までのアルバムの中で一番コントラストがあるアルバムだね!だてに High Contrast と名乗っていないからね!

Dominik Eulberg Interview

Q : “Tough Guys Don’t Dance” でもいろいろなジャンルのサウンドをサンプルしているようですが、アルバムで使ったサンプルについて教えてください。

HC : 今回のアルバムは長年使いたかったサンプルの集大成といえるね。“in gadda da vida” に使われているギターリフも数年前からサンプルとして使いたかったんだ。 “Tread Softly” 、 “ The Ghost Of Jungle Past” 、“Kiss Kiss Bang Bang”、 “Tread Softly” 、 “Metamorphosis” もみんな10年ぐらい前から使いたいと思ってたサンプルをベースにしたものだしね。何回も曲に組み込もうとしてうまくいかなかったんだけど、去年やっと曲に組み込めたから、嬉しかったな。

Q : ワインのように熟してるんですね。

HC : そうかもね(笑)。 ただし、僕が一番楽しいと思うのはサンプルを見つける事なんだよ。実際のアルバム製作は長くて大変なんだ。製作してる間で僕にとってサンプルを見つけた時ほどハッピーな気持ちになる時はないよ。

Q : それでしたら、やはりサンプル素材のレコードショッピングはかなりするんですか?例えば東京とかで。

HC : 昔はツアーに行くたびに、いろんな国で古いレコードを買って、ボックスいっぱいの変わったレコードばかりを持ち帰ってたんだ。だけど今は主に ebay で買ってるね。これといったレコードは探してないけどね。まさにSerendipity だよ (Serendipity とは探しものをしている時に、探しているものとは別の価値あるものを見つける能力)。 僕がサンプルを探り出すのではなく、サンプルが僕を見つけるんだ(笑)。家はレコードだらけだよ。

Q : “tough guys don’t dance” の中で特にお気に入りのサンプルはありますか?

HC : “Metamorphosis” のギターリフが大好きなんだよ (リフのサウンドを嬉しそうに真似る)、やっぱりあの70年代のプログレッシブロックサウンドがたまらないね。あの頃のロックが大好きだからね。ドラムンベースと組み合わせるのが本当に楽しかったよ。 “The Ghost Of Jungle Past” のボーカルサンプルも気に入ってるよ。実はあれは日本の映画の英語の吹き替え版からのサンプルなんだ。10年前にサンプルしてからずっと曲に使いたかったんだ。

Q : “Kiss Kiss Bang Bang” も長年曲に組み込もうとしていたサンプルですよね?これはダウンテンポから一転、パワフルなドラムンベースへと展開する曲ですね。この曲を製作するビジョンの中には、すでにDJする時のことを想定していたのですか?

HC : 特にそういうわけじゃないんだけどあのヒップホップのリズムは無意識に DJ Premier のスタイルに近くなっていたかもね。 Premier はサンプラーとして最初に僕に大きな影響を与えてくれたクリエイターなんだ。彼のループは素晴らしいしね。そういったサウンドを捉えようとしていたんだ。

Dominik Eulberg Interview

Q : あなたの曲には記憶と時間をテーマにした曲が多いようですが、何か特別な理由はありますか?

HC : そうだね。時間と記憶はとても関心を持っているトピックなんだ。時間と記憶は人間の存在の根源だと思うからね。時間は動物には認識できないんだよ。人間にしか感じられないんだ。人間は常に時の流れに影響されるものだよね。ゆっくりゆっくり流れていくと思っていても、気づいたらあっという間に過ぎちゃってたり(笑)。 時間と記憶は僕らの精神を混乱させたり、悩ませたり、その繋がりが面白いね。だから自然とこういう曲を作ってるのかな。 “Return Of Forever” 、 “Remember When”、 “The Persistence Of Memory”、 “Yesterday's Colours”、 “The Ghost Of Jungle Past” 、 “If We Ever”・・・。

Q : サンプリングは芸術とも言われますがそれについてどう思いますか?

HC : (笑)。 何事でもそうだけど、こだわりを持って行えば絶対に芸術だね。その前にまず、芸術とは何かの議論が必要だけど、今日は止めといたほうがいいかもね(笑)。 僕は作曲よりサンプリングに関心があるからね。曲を作る上でも、サンプルを最初に見つけるんだ。サンプルは僕の曲の魂だからね。 僕は面白いサンプルを聞き分ける耳を持っていると思う。音楽を作る上で、個人的には技術的なスキルよりもそういった音を聞き分ける能力の方が大切だと思うね。僕は自分をミュージシャンとは思っていないよ。面白いサンプルを見つけてそれから全く新しいサウンドを作り上げて、「このサンプルすごいでしょ!」って紹介しているだけなんだ。

Q : これからのドラムンベースシーンの傾向についてどう思いますか?
2001年のハードサウンドから2004年の Liquid ブームが終了して現在ドラムンベースのサウンドは多様化していく傾向がありますが、これに関していかがでしょうか?

HC : 確かに今はセットの内容が自由になったね。好きな曲をかけられるようになったよ。2000年頃は Liquid スタイルの曲をプレイできなかったけど、今は Hype とかも Liquid スタイルの曲をセットでプレーしたりするからね。彼みたいな DJ がボーカル系の曲をクラブでプレーするのはいい傾向だと思うよ。ちょっと前は DJ みんながプレイするような曲が10〜15曲ぐらいあったけど、今は DJ 達のセレクションでかぶるのは1曲ぐらいだからね。その結果、ファンの選択肢が増えた事は確かだね。おもしろいことだと思うよ。最近は BBC Radio1 でも昼間からドラムンベースが流れてるしね。昔だったらありえない事だけど、シーンが認められ始めているっていうサインなんじゃないかな。 僕の曲も従来のドラムンベースとは違うと思うんだ。シーンの傾向を語るドラムンベースだと思ってるよ。 “if we ever” もジャングルのイミテーションであり、シーンがジャングルの記憶を忘れていないことを認めて、語ってるんだ。実はこのシーンがジャングルサウンドへのこだわりから卒業できるかを問いかけてるんだよ。

Q : 日本の音楽シーンで現在注目しているアーティストはいますか?

HC : Makoto は昔から好きだね。彼の弟の Akira もいい曲作ってるしね。 レーベル仲間の T-AK のサウンドも気に入ってるよ。

Q : これからの High Contrast はどういった展開が期待できますか?

HC : 何よりも予想できない展開に期待して欲しいな!僕も好きなアーティストには予想できない展開をしてくれるのが何よりも楽しみだし、僕は同じ事をするのを好きじゃないから常に新鮮なサウンドで自分を表現するように心掛けているからね。やっぱりコントラストがあるサウンドを楽しみにしてて!(笑)

End of the interview


関連記事


関連リンク