「僕は本当に運がいい。DJをやってて何度か誰かを殴りそうになるようなシチュエーションに何度も遭遇してるんだけど、僕自身が殴られたことは一度もないんだ。実際僕は人にとても失礼な振る舞いをしてることもあると思う。でも自分がDJしてる時に失礼な振る舞いをされても相手にしないことにしてるんだ。人生で何度か殴られたことはあるけど、それは別にDJとしてじゃない。」
彼の友人である Radio 1のDJ、 Tim Westwood は一度撃たれているが、Gilles Peterson 自身は友好的でしっかりした性格の持ち主であると長い年評判である。そんな彼はDJブースやその他の場所で遭遇した些細な喧嘩や危険な出来事を思い返し、笑みを浮かべた。Westwood と同じく彼は長年アーバンかつ、アンダーグラウンドな音楽を幅広く専門とし、ダンスミュージック界の重要人物となった。長年、彼を尊敬し、愛してきたファンの中には彼が不快に感じるところまで踏み込んできた者も数人いたという。
「いくつかのストーカー事件もあったね。変な女性達にストーカーされて、警察に頼んだこともあったよ。彼女達は全てを欲しがって、狂信的になっていた。だからラジオをやってても気をつけなくちゃいけない。精神的に不安定な人は僕の小さな発言を変な風にとらえるんだ。もし彼女達のことを認識すれば、それだけでもう結婚をOKしちゃったみたいな話になるんだよ。一時期はそれがすごく怖くなったこともある。まぁ、それは数年前の僕がもっと若くてかっこよかった頃の話だけどね(笑)」
彼の言う「ラジオ」とはイギリスの Radio 1 で毎週放送されている彼の人気番組のことであり、その番組は今月で10周年を迎える。この10周年という区切りは彼にとって非常に重要なものだと彼は語る。
「10年っていうのは人生の大きな一部だよね。僕は Radio 1 は世界一のラジオ局だと思ってるんだけど、未だにその一部で居られることを幸せに思うよ。これは僕にとってすごく大きな意味があるんだ。Radio 1 のDJの中でも僕は変わったDJだと思うから、頑張らないとね。」と彼はラジオに対する想いを熱く語った。
Interview & Introduction : Benedetta Ferraro (Skrufff.com)
Translation : Shogo Yuzen
Skrufff (Benedetta Ferraro) : 何年にも渡って毎週番組を続けてきたわけだけど、熱意を保つことは難しいんじゃない?どうやってそれがただのルーティーンになってしまわないようにしてるの?
G.P. (Gilles Peterson) : 僕はバラエティーに富んだ色んな音楽をかけるから、それに飽きることはないんだよね。でもたまに申し訳ないと思うんだ。未だに自分はドラムン・ベースのDJだって呼ばれていていいのかな?って。もし僕がドラムン・ベースだけをかけてたら、ここまでは来れなかったと思うんだ。ヒップホップで良い曲が無かったら、エレクトロから探したり、新しいバンドの曲を聞いてみたり。幅広いジャンルの曲をかけるからこそ、毎週何か新しいことがあってすごく楽しいんだ。
Skrufff : 君の元には毎週色んな曲が届くと思うけど、その曲たちのクオリティーにはそれぞれ差があったりするの?
G.P. : クオリティーの差はすごく大きいね。僕は届くものを全部聞いて、全部にコメントを書くタイプの人間じゃないんだ。僕は何かをする時に決まったやり方みたいなものを決めないから、時には届くものを全部聞くし、聞かない時もある。時には薦められたものを聞いてみたりね。そういう意味では実は僕はコミュニケーション能力に乏しいかも知れないけど、今のやり方でなぜかうまく行ってるんだ。自分に強いるようなことはしたくないから、もし気が向かなかったら全く聞かない。これを仕事っていう感じにはしたくないんだよね。
Skrufff : 不況や困難な時こそ創造力を育てるいい時期だっていうけど、それについてはどう思う?
G.P. : そう思うね。音楽にとっては間違いなくいい時期だと思うよ。みんなが言ってるようなことかも知れないけどね。イングランドで活動する上ですごくいいことは、ここはすごくシニカルな場所なんだ。競争率も高いから、みんなが努力する。みんながいい音楽を作るために努力するから、他の場所では可能でもここでは手は抜けないんだ。すごく大変なところだけど、音楽の発展の上ではすごく重要なことだと思うね。
Skrufff : 著しいデジタル化についてはどう思ってる?今もバイナルのレコードを使ってるの?
G.P. : 僕は Pioneer の CDJ-1000 でミックスするのが好きだから、基本的にCDで曲をかけるんだ。でも Plastic People みたいな小さな場所ではバイナルのレコードでプレイするのが好きなんだ。こういうクラブはきちんと自分達の機材の管理を行なってるから、バイナルで曲をかけるとすごくいい音が出るんだ。後は僕がバイナルでプレイするのを見るのが好きな人もいるから、もし僕がノートパソコンを持って現れたらそれを良く思わない人も多いだろうね。たまに使うことはあるけど、完全にパソコンに切り替えようとは思わないね。パソコンを使ってプレイしてると同じようなプレイになりがちだと思うんだよね。CDやバイナルレコードのいいところは、限られた種類の曲しか持って来れないからこそDJがクリエイティブにならなきゃいけないところだね。もしコンピューターの中にたくさんのヒット曲が入ってるってわかってたら、結局そればっかりをプレイしちゃうと思うんだ。かけたいようなものがレコード箱にもコンピューターにも入ってない時には何か新しいものを生み出さなきゃいけない。それがすごく楽しいんだ。
Skrufff : ロンドンの Jazz FM で放送されていた君の番組は 「適切」 でない音楽をかけて、湾岸戦争中に平和を訴えたから打ち切りになってしまったことをBBCのバイオグラフィーで知ったけど、第二次湾岸戦争の時に口を閉ざしていなければいけないのは辛かったんじゃない?そして、今だからこそ話したいことってある?
G.P. : 一度あんな経験をしたら、絶対にあそこには戻りたくないって思うはずだよ。あの発言をした時僕は若くてトラブルに巻き込まれた。特に今は Jonathan Ross (訳注:BBCの有名司会者) の事件があったりして、みんなが過敏になってる時期だと思う。僕みたいな経験をしたことがある人なら自分の得意なことだけに集中すると思うよ。自分は政治家として呼ばれたわけじゃない。でもあの頃は若くてナイーブだったからそれがわからなかったんだ。あの1件で、テルアビブでのギグもキャンセルしなきゃいけなくなった。でもそれについてはもう語らないよ。悲しいけど、この国はそういう国なんだと思う。だけど、他にもたくさん方法はある。例えば僕なら音楽を使ってそれを表現することだってできるんだ。
Skrufff : もう少し君のバックグラウンドの話をさせてもらっていい?あるDJサイトでの一件をきっかけに、これまでのレジデントDJの話をキャンセルされて Electric Ballroom でレジデントDJを務めることになったって読んだんだけど、そんな風に背を向けられたことは気にしてた?
G.P. : 先も言ったけど、あの頃僕は若くてナイーヴだったからあんまりそれに気づいてなかったね。僕はすごく尖ってたし扱いづらかったんじゃないかな?
Skrufff : その頃にたくさんネガティブなことが起こったけど、どうやって対処したの?それに押しつぶされない方法は何だったの?
G.P. : 若くて強い意志を持ってたら、どんなことでも切り抜けられると思わない?若い頃は過激だし、傷ついてもすぐに立ち直れるよね。でも歳を取ると段々繊細になっていくよね。DJ Paul Murphy との関係で面白いのは、未だに一緒DJしたりするんだよね。毎年一緒にパーティーをやるんだけど、彼を少し感嘆するところもある。ジャズとダンス・ミュージックだったら今でも彼がナンバーワンだと思うよ。
Skrufff : あの一件から君に向けられた敵意が消えた瞬間っていうのはあったの?
G.P. : 僕はDJっていうのはスポーツ的な要素も含んでると思う。すごく競争的な世界だし、その世界では男の子はいつまで経っても男の子だと思うんだ。いつも妬みや競争がDJの世界にはあるし、多分DJの多くはどうやって僕がそれを上手く切り抜けたんだろうって不思議に思う人もいるだろうね。多分僕はすごくラッキーだったんだ。DJがキャリアになって、それで生活ができる時代が来た瞬間に僕はこの世界にやってきた。タイミングが良かったんだよ。バッチリのタイミングにバッチリの年齢だったしね。
Skrufff : 昔と比べて何か変わったことはある?
G.P. : うん。少しだけ変わったことはあるかな。未だにDJは過大評価されてると思う。成功したDJ達が ”Super Star DJ” て呼ばれるような時代が来た時は、馬鹿馬鹿しいとさえ思ったよ。そして、”Super Club” の時代が終わりを迎えた時は喜びさえ感じたよ。だって彼らにとって大切なものは音楽ではなかったからね。フットボール選手たちに少し似てるけど、今はすごくいいDJが何人かいて、それに見合ったものを手に入れてる。そういう意味では今はいいバランスが取れてると思うよ。DJのプレイのためにクラブに入る時に、その値打ち以上のお金をみんなが払わなきゃいけないっていうのは間違えてるよね。僕にとって大事なのはクラブがちゃんといい音響システムを持ってるのかとか、見に来てくれてる人たちは僕のプレイを楽しんでるのかっていうことなんだ。それを大切にしてなかったら、過去の20年間僕は良くないプレイをやっていただろうね。
Skrufff : Danny Rampling が、 Club UK が現れてから、ハウスシーンのDJのギャランティーが一気に跳ね上がったって言ってたけど、君もそれを経験したの?
G.P. : いや、僕は基本的に安定してるかな。だからこそ、今でもたくさんの仕事をもらえるんだと思う。だって僕はいつでも手の届く存在だからね。僕は友達のためにノーギャラでプレイすることもたくさんある。いいパーティーだと思ったら、プレイするだけなんだ。でも売れっ子が現れれば、自分に目が向かなくなるのは当たり前だよね。でも重要なのはバランスだと思うんだ。もう1ギグにつき15,000ポンドもらえるような時代は終わったんだ。もしかしたら、Mark Ronson を初めとする数名のDJや、セレブのパーティーでプレイするような限られた人、指折りのトランスのDJはそれぐらいもらってるかも知れないけど、ほとんどのDJのギャラは下がっただろうね。
Skrufff : ロンドンでのギャングの暴力事件についてはどう思ってる?特に黒人同士の抗争からの発砲事件が多いけど、それは何故だと思う?またそれの解決の糸口はなんだと思う?
G.P. : う〜ん、社会的な質問だし正直わからない。暴力っていうものは今までも常にあったよね。ドラッグの問題は無視できないものだと思うよ。ロンドンはあまりお金を持っていない人が住むにはすごくタフな街だと思う。たまにどうやってみんなが生活しているのかが不思議になるときがあるんだ。ここはみんなが共食いするような場所だからね。
僕はホックニーに住んでいて、そこにはたくさんの派閥があるんだけど、イカれてるよ。学校の外に警察が集まっているのとかを見ると怖くなるよね。20年前にもクラブやラジオ局で同じようなことが起きてるって聞いたりしたね。それについてを読んだこととかはなかったけど、そういうことが起こってるっていうのは知ってた。今となってはそういうクラブには行かないけど、昔そういう都市のクラブでプレイしてた時はもっと危険だったね。
Skrufff : Level 42 のファンクラブに入ってたんだよね?
G.P. : うん、大ファンだよ!
Skrufff : 彼らに会ったことはあるの?
G.P. : いや、無いね…
Skrufff : 自分のファンクラブを設立したいと思ったことはある?
G.P. : Myspaceのページがあるから、それをうまく活用すれば十分だと思ってるよ。
Skrufff : 君のファンにはどんな人が多いの?
G.P. : 色んなファンがいるよ。でも大体のファンがかわいいかな?僕のファンは素晴らしいよ。すごくクールだし、誇りに思ってる。半分冗談で言ってるんだけど、実は Brownswood.co.uk っていう非公式の僕のウェブサイトがあるんだ。そのサイトのメッセージボードがあるんだけど、そこに書き込んでる人たちの中には僕が初めて Radio 1 で番組を始めた時に見に来てくれた人もいるんだ。昔の僕のメッセージボードはすごく人気があったんだけど、ある時に、BBCが他のDJ達のメッセージボードと一緒にしようとしたんだ。そしたら、僕のファンがそれを嫌がって新しいメッセージボードを作ったんだ。そのメッセージボードがどんどん広まって、今では彼らがイベントをプロモーションしてくれたりして、中には僕の友達になったファンもいるんだ。
彼らはサポーターであると同時に僕の評論家なんだ。もし僕のプレイで何かダメなところがあればそれを教えてくれるんだ。素晴らしいことだけど、自分に対するマイナスな評価は誰にとっても耳が痛いものだよね。だけど、彼らがいるから僕は自分自身が物事をきちんとできているか確認できるんだ。
Skrufff : いまでも Coutney Pine, Brand New Heavies, Galliano, Jamiroquai や Collin Favor のようなアーティスト達とは交流があるの?
G.P. : もちろんだよ。Galliano とは最近オーストラリアで一緒にMCをしたところだよ。セルビアでは Brand New Heavies にも会ったし、同じマイクロバスにも乗ったんだ。 今でも彼らにあちこちで会えることや連絡を取り合えるのはいいことだね。 中には友達としての付き合いのある人たちもいるよ。
Skrufff : 君のキャリアはずっと右肩上がりに見えるけど、過去を振り返ってみて自分が 犯した最大の失敗は何だったと思う?
G.P. : 誰でも過去を振り返ってあの時こうしてれば良かったなって思うことがあるだるよね。そういう話を昔の世代のアーティストと話しているときにいつも思うのは、アシッド・ジャズや Talkin' Loud を始めた頃にもっと色んなアドバイスを受けられたら良かったかもしれないね。もしいいマネージメントがついていれば、経済的な面でもっと色んなことがうまくできたんじゃないかって思うんだ。だけど、その一方で彼らや僕のようなアーティストが成功できたのはお金のことを気にせずにただ自分の好きなことに打ち込んできたからだったと思う。
もし僕がもっとビジネスのことを考えてたら、きっと僕は創造性を失っていただろうね。ずっと振り返ってても仕方ないから今の状況を幸せに思って、前に進むんだ。僕は自分自身や家族、友達が健康でいられて、僕が今でも音楽を続けられていることを幸せに思ってる。毎朝目が覚めて僕は希望に満ち溢れてる。未来にはもっと大きなものがたくさん待ってると思うんだ。
End of the interview
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