HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Sweet n Candy Interview

ファブリス・リグは Soul Designer 名義で’02年にリリースした "Walking On A Little Cloud" (2007.11.21 Third-Ear より再発決定) で、マイク・バンクスやカール・クレイグらデトロイトのアーティストたちの絶賛を受けた。そして、本人がベルギー出身の白人男性であることにシーンは衝撃を受けた。

’07年、ついにセカンド・アルバム "Evolutionism" を発表。これもまた Galaxy 2 Galaxy などロマンティックなデトロイトテクノの影響をストレートに表現しながらも、デトロイトテクノをさらに進化させるような快作である。今年くらいからヨーロッパでは「ネオ・デトロイト」というコトバが流行しているが、まさに「ネオ・デトロイト」を代表するアルバムとなるだろう。

そして、日本にもデトロイトテクノの影響を受けながらも、常にオリジナルなサウンドを探求し、マシンにソウルを吹き込みつづけているアーティストがいる。ケンイシイだ。ケンイシイは、ファブリス・リグとタッグを組んで、お互いのアルバムでコラボレーションを繰り広げている。ケンイシイのアルバム "Sunriser" に収録された 'Organized Green'、そして Soul Designer のアルバム "Evolutionism" に収録され 'Australow-P-Tek Funk'。どちらも遠く離れた二人の意識が、地球を離れ、銀河を彷徨い、そして出会い、生まれたかのようなコズミック・ソウルだ。

今回、ベルギーと東京に点在する二人のソウルをインターネット回線につなぐことに成功した。話題は、二人の出会い、デトロイトテクノからの影響、コラボレーション、音楽の未来・・・。そして、現在デリック・メイをはじめとするデトロイトテクノ系アーティストたちの間で熱く議論が交わされているクリック・テクノについて。この対談には、マグマよりも熱い音楽への情熱がつまっている!

> Interview : Takamori Kadoi

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Takamori Kadoi (以下T) : まずお互いの出会いについて教えてください。

FABRICE LIG aka SOULDESIGNER (以下F) : まるで、昔からの親友に会ったような不思議な気分だった。もちろん、以前からケンの作品は知っていたし、共感もしていた。そして実際に知り合ってみて、ケンとは共通するところがたくさんあった。だから、いっしょに仕事するようになっても、友だちのようにやっていける。そんなことはとても珍しい。ケンに出会えてとても嬉しいよ。

KEN ISHII (以下K) : まず、彼の作品を聴いて好きになって。その後、どこかで出会って。最初から、波長があった。だから、コラボレーションの話をはじめるのに時間はかからなかった。お互いの音楽性やスタイル、ルーツや影響もわかりあっていたし。自然な感じで進んでいったよ。

F : 音楽的なことも大切だけれど。人間的な部分も大事だ。そのアーティストの音楽が好きでも、実際に本人にあって失望してしまうこともたくさんあるから。

K : (笑)

F : やっぱり音楽と人間、両方がいいにこしたことはない。ケンはそういう人だから、好きなんだ。そして、自分もそうなろうと思って努力しているよ。

K : はじめて出会ったときから、オレもファブリスのことを同じように思っている。オレたちはDJとして世界を飛び回っていて、いろんなDJを知っているけど、すぐに友達になれる人は少ないんだよね。

F : そのとおりだ。普段の人生でも同じだよ。なにか音楽のような共通点があって出会っても。その後は、人間的なことが重要だ。特に音楽業界はジャングルのようなところだから(笑)。ちゃんと自分が尊敬できる人をシーンの中で見つけなければいけない。だから、ケンのように共感できる人との関係は大切だ。

T : 音楽的な共通点は?

F : やはりデトロイトテクノだね。その他は、わからない。デトロイトテクノには色んな側面があるしね。ファンクだったり、ジャズだったり、その他のブラックミュージックだったり。だから、ブラックミュージックが共通点じゃないかな。

K : テクノ・デトワ〜(笑) (*フランス語で「デトロイトテクノ」)似たような影響を受けてきているから、一緒にトラックを作りやすい。たとえば、サウンドやビートのことを説明するのも共通言語があるから簡単だよ。

T : デトロイトテクノの影響は明らかに感じます。でも、さらにお二人の音楽はデトロイトテクノを進化させていると思います。

F : それをしなければ意味がない。コピーをつくるのはナンセンスだ。ケンが Plus 8 から最初に出したシングルは、デトロイト周辺のシーンから出てきたものだった。でも、サウンドは他の誰とも違う、特別なフレーバーを持っていた。あれはオリジナルなサウンドだ。でも、僕は曲を作り始めた頃、ジェフ・ミルズのファンで彼の作品のようなものを作っていた。当時はそれ以上ができなかったから。でも、僕はそれを超えようと模索してきた。そして、自分のサウンドを見つけることができた。だからアルバムのタイトルにした "Evolution" が大切なんだ。僕にとって、音楽は「Evolution」。つまり、過去の良かったものから学んで、さらに進化させていくということ。それが大事なのさ。

K : 一緒だよ。オレにとって、デトロイトテクノの哲学とはオリジナルであること。コピーをしたり、フォロワーになるのではなくてね。オリジナルになるには、アップグレードしなくてはならない。それが、デトロイトテクノから受けた最も大きな影響だね。

F : デトロイトテクノは音楽というよりも精神性だったんだ。ファンキーで、ソウルフルで、メロディック・・・というエレメントもあるけれど、そこには色んなものが込められている。

K : 大事なのはスピリットだよ。


T : 二人のコラボレーションはどうはじまったの?

F : その人を友達だと思ったら、夕食や、いい時間を共有したくなる。友達がミュージシャンなら、音楽を共有するのが一番だ。でも、これまで僕はコラボレーションをあまりしてこなかった。それは、パートナーを見つけるのが難しいからなんだ。ケンは完璧だよ。デトロイトの影響を受けながらも、オリジナルのデトロイトテクノとは違うことをやっているからね。ケンにはオリジナルの音があるし、僕も自分のサウンドを持っている。お互いのパーソナリティをトラックに持ち込むことができるから面白い。コラボレーションをやるときには、それを感じられるようにしたいと思っている。トラックを聞いてもらえばわかると思うけど、ファブリス・リグのトラックでも、ケンイシイのトラックでもなく、二人で作った作品であることが伝わると思うよ。そこがいいんだ。コラボレーション作品を聴いてもどちらかの作品としか聞こえないものもある。

T : 作業の分担はどうしたんですか?

F : ケンの 'Organized Green' を作ったときは、ケンにビートとドラムを作ってほしいと頼んだんだ。僕は彼のリズムが特にいいと思っていたから。

K : そういってくれていたよね。

F : そこに自分のサウンドを足して、作業をはじめていった。とてもうまくいったよ。

K : 最初にキーとなるベースの音をつくって。それを彼に送ったら、たくさんのループやサウンドを送り返してくれた。作業がとても早いのに驚いたよ。

F : 普段はそんなに早くないんだよ(笑)

T : じゃあ、ケンさんの音にインスパイアされたんですね!

K : ありがとう。でも、すべてのパーツがいいと思ったから、そのまま使わせてもらった。'Organized Green' は、50・50の比率でお互いのサウンドが混ざっているトラックだよ。

T : それは理想的ですね

K : 完璧なコラボレーションになったと思っているよ

T : 今回の 'Australow-P-Tek Funk' については?

F: ケンを驚かせようとおもって、ファンカデリックみたいなファンキーなメロディを書いたんだ。そうして、ファンク・テクノ・トラックができた。とても誇りに思っているよ。いまのサウンドとはぜんぜん違うものがつくれたと思う。

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T : 音源はインターネットで交換したそうですが。その前に打ち合わせはしましたか?

F : まあ、メールで少し話をしたかな?でも、こういう音楽を作るのに会話はあまり必要じゃない。

K : 会話はほとんど必要なかったね。もともとお互いの好きなサウンドを知っているし、どんなものを作りたいのかもイメージを共有できていたから。長い会話は必要なかったよ。最初のループとファイルがすべてを語ってくれた。

F : パーツを交換していって、毎回新しいサウンドやメロディを加えていって、純粋にいい音楽を作ろうとしたって感じだったね。

T : 仕上げはどちらが担当したのですか?

F : 仕上げは、ボクのアルバムのときは、ボクが。ケンのアルバムのときはケンがやった。それぞれアルバムをリリースする人が仕上げるのが、自然だと思ったから。

T : なるほど。ところで、ケンさんは今回の Soul Designer のアルバムは聴きました?

K : 今年のはじめに聴かせてもらったよ。ファブリス・リグ名義のアルバムとはだいぶ違う感じだと思った。もちろん、このテイストも好きだし。サウンドプロダクションがすごくいい。それと、アメリカのブラックカルチャー、ブラックミュージックについてのディープなコンセプトがいいと思った。こういうコンセプトをファンキーでハッピーな楽曲で表現するのは、とても難しいことだと思うけれど。このアルバムでは成功していると思う。素晴らしいことだよ。

T : コンセプトについての話が出たけれど、どうしてベルギーに住むあなたがブラックカルチャーに惹かれるのですか?

F : わからない。日本人でブラックミュージックを聴いているすべての人にも聞いたほうがいいんじゃない?

T : 確かに。ボクは自分にその質問をよくしているよ。

F : (笑)たぶん同じだと思うけど。僕はファンキーでソウルフルなものが好きだから。白人にジェームス・ブラウンみたいな音楽が作れるかはわからない。彼らは僕たちに出来ない音楽を作っていると思う。ブラックミュージックは歴史や文化と密接につながっている。奴隷の歴史や、差別とか、黒人の歴史からくる体験が関係している。とても特別なものだ。きっと皮膚の下にある、ハートから生まれるものだと思う。だから黒人音楽からは強力な、ピュアなエモーションを感じるんだ。そこに込められた感情は悲しみだったり、ハッピーだったり、いろんな感情が入っている。僕にとっても、音楽は感情の表現なんだ。

T : 同感です。

F : そういえば、TVでアルツハイマー病患者の話を見たんだけど。高齢でかなりアルツハイマーが進んでしまっても、若い頃に歌っていた曲を歌うと、その曲をちゃんと覚えている。これは音楽の力を証明する、一つのいい例だと思うんだ。

K : 記憶の深いところに音楽は刻みこまれるんだ。

F : そうそう!人生体験が音楽と結びついて記憶されていたりするから、アルツハイマー病の人でも、たとえ音楽が好きじゃない人でも、曲が記憶に深く刻み込まれているんだ。

T : ケンさんは、ブラックミュージックからどのような影響を受けましたか?

K : まあ、オレはそこまでブラックミュージックにハマっていたわけじゃないけど。若い頃は発明のある音楽、新しいアイディアを持つ音楽に興味を持っていて。ブラックミュージックには、ファンクネスやメロディといったエレメントの中に発明を見つけることができた。デトロイトテクノやアシッドハウスは、まさに発明だったと思う。

F : 僕はデトロイトテクノを聞きはじめたことで、どうすればこんなにいい音楽が作れるのか考えはじめた。それから、ジャズ、ファンク、ソウル、ブルース、ゴスペルなど、彼らのルーツになった音楽を探求するようになったんだ。

T : ボクも同じです。

F : それは素晴らしいことだよね。でも、最近若いDJで、好きな音楽のルーツに興味のない人とあったんだけど、まったく理解できないよ。

K : そうだね。ヨーロッパの若いミュージックジャーナリストでも、エレクトロニックミュージックしか知らなかったり。音楽のルーツを知らない人が多いよね。

F : もちろん音楽の未来に興味を持って考えることはいいことだけど、歴史を知らなければ、現在や未来を理解することはできない。自分が聞いている音楽の歴史を知ることは大切だよ。去年ベルギーの Redbull Music Academy でミニマル音楽の歴史についてレクチャーしたんだ。僕は今のミニマルにはあまり興味がないけれど、昔のミニマル音楽は好きで。まあミニマルといっても色んな意味があるけど。でも、若い人にボーダーコミュニティやコンパクトだけがミニマル・ テクノではないと知ってもらいたかったんだ。それでベーシックチャンネルや初期のリッチー・ホウティン、ハーバート、ロバート・フッド、ジェフ・ミルズについて話をしたんだ。みんな驚いていたよ。10〜15年前の話なのに、ほとんど知らなかった。

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T : 過去の音楽から新しいものを作るということについては?

K : それがオレたちのやっていることだよ。オレたちは過去と未来のハザマに生きている。いい音楽の歴史を知っているから、過去を無視することはない。それを新しいカタチでプレゼンテーションしていくんだ。それと、いいものを新しい人に紹介していくことも必要なことだよ。新しいリスナーは過去を知らないからね。

T : オリジナルのミニマル・テクノやデトロイトを知らない若い人がどんな音楽を作るかにも興味があります

K : ただの焼き直しにならないことを望むよ。

F : あまり他人の音楽から影響を受けなかった人が音楽をつくれば、オリジナルなものが生まれる可能性がある。でも、それは限られた天才だけにできることだ。僕たちのような人間にとっては、音楽を聴いているときに何を抽出するかが大事なんだ。僕の場合はエモーションやボクのハートにタッチするものを求めてきた。でも、ブリープとビートだけのミニマルなテクノは音楽というよりは機械的なものだと思う。

K : パズルみたいなものだよ。

F : あれは、テクノロジーのデモンストレーションだ。初期のケンはテクノロジーを使いこなしていたけれど、テクノロジーとソウルのバランスがとれていた。テクノロジーをあくまで道具として使ってエモーション、ソウルを表現していたんだ。でも、いまはテクノロジーを使ってシークエンスを作って、それだけというか。それ以上のものを感じないんだ。そういうものがたくさん出てきている。でも、若い人たちの中にだって、ソウルフルなものが好きな人たちもいるから、あまり将来に不安を感じてはいない。新しいもの、おもしろいものは毎日出てきていると思うしね。

K : 今は、たくさんの人がこういう音楽に興味を持っていて、インターネットなどでカンタンに音楽を手に入れて、影響を受けて、作品を作っているから、新しいアイディアや新しい音楽がでてくる可能性もある。これはポジティブなことだと思う。でも、同時に同じような音楽ばかりが出てきてしまう危険性もある。今ではどんな街にいても同じような音楽を手に入れることができる。だから、違う人種、違う人間でも、同じものからインスパイアされて、同じようなアイディアが生まれる危険性がある。色んな音楽が聴けるのはアーティストにとってはいいことだけれど。でも、逆にオリジナルなスタイルを確立するのが難しくなっているような気もする。

T : それと、いろんなことがやり尽くされている。

F : そうだね。

K : オレたちの世代は、自分から能動的にいい音楽を探さなければいけなかった。だから、みんなが違うことをやっていて、個人のアイディアが生まれていったと思うけど。今は、どこにいても同じ音楽が聴けるからね。でも、天才が出現してくるのを待っているよ。

F : 音楽の価値も変わったと思う。僕の若い頃はレコードを買うということはとてもスペシャルなことだった。数時間かけて探したりしてね。でも、いまではお菓子を買うようにレコードを買って、一週間後にはゴミになる。音楽がまるでファーストフードのように扱われている。今だけのために買って、来月にはまた新しい音楽を買うみたいにね。それが若い人との違いかもしれない。

T : 若い人たちもあなたと同じように考えてくれることを願います。

F : どうだろうね。たくさんの人に会うけれど、そういう人はかなり少数派だから。

T : それは悲しいね。

F : そうだね。デジタルでダウンロードした音楽は捨てるのもカンタンだから。聞いたら捨てられる。でもレコードはそうはいかない。買ったときの思い出もあるし、ジャケもあるし。捨てられないよ。でも、時代は変わる。僕らは時代遅れだといわれてもかまわないよ。タイムレスな音楽をつくるべきだと思うし。すべてが変わっても、そこは絶対に変わらない。

K : それは、ボクも同じだよ。

End of the interview


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