Tracey Thorne や Rapture などメジャー・アーティストのアルバム・プロデュースを手掛け、Aクラスのリミックス・キャリア(Pet
Shop Boys 、Royksopp、Franz Ferdinand、the Chemicals Brothers)を持つ Ewan Pearson
は、現在最も勢いのあるプロデューサーであり、DJ としても傑出したキャリアを持つ彼は、 間違いなく、成功を収めたアーティストの模範例だと言えるだろう。しかし、そんな彼に「次の
Ewan Pearson になりたいと願う若いプロデューサーに対してどう思うか」という質問をすると、その厳格なアドバイスは、大きな笑い声と共に返ってくるのであった。
このように厳しいコメントは発するものの、実際の彼はフレンドリーで分別があり、非常に頭のいい男として知られている。そして、その「つまらない奴になるな」という言葉は、主に彼自身に向けられているのである。
誰も知人のいないベルリンに到着したのが今から3年前。今となってはすっかりベルリンの音楽シーンに溶け込んだ彼だが、(彼がスタジオをシェアしているのは、
DJs Sasse 、DJ Naughty といった面々)’07年はさらにその上を目指していく予定だと話した。
「ここ数年は DJ ギグの数もぐっと減らしたんだ。理由は音楽制作を中心にやっていたからなんだけど、音楽制作をしながらギグにも精を出すなんて出来ないし、ベルリンにいる時間を増やしたかったんだ。今より2倍のギグを入れて、しょっちゅう旅に出ることも出来るよ。でも無理をしすぎてプライベートな生活をメチャクチャにしてしまうなんて嫌なんだ」
Everything But The Girl のシンガー Tracy Thorn のニュー・アルバムのプロデュースを手掛けた Ewan は、Partial
Arts のメンバーとして、現在クラブ・シーンで大きなヒットとなっている ‘Trauermusik’ をリリースしている。
以下は対談形式でのインタビューの模様をお伝えする
(Translation by Kei Tajima)
Skrufff (Jonty Skrufff) : 音楽作りを始めた時は、プロデューサーとしてのキャリアについてどんな考えをお持ちだったのでしょうか?
Ewan Pearson : 初めは音楽を作りたい一心でプロデュースを始めたんだ。自分がアーティストになるなんて夢にも思ってなかったからね。音楽の作り方を学びたい一心だったんだ。プロデューサーの中には音楽的な教育を受けていたり、バンドでの経験があって楽曲作りを始める人が多いけど、僕の場合、小さい頃から音楽を作る方法を何とか見つけたいという気持ちがあってね。自分が17年前からやりたかった仕事をしてるって気付いたのは本当に最近になってからのことなんだ。Rapture の曲を8曲と、Tracey Thorn のニュー・アルバムも半分プロデュースして、今年はもっともっと忙しくなる。ここまでくるのに時間はかかったけど、楽しくてしょうがないよ。
Skrufff : 楽曲制作を始める前は哲学を勉強して、大学で講師をされていたそうですが、まだイギリスの中部地方、キドミンスターで生活なさっていた頃、どのように音楽と勉強を両立されていたのですか?
Ewan Pearson : 音楽は常に作っていたけど、同時に大きな夢のようなものでね。音楽で食べていけるなんて夢にも思ってなかったよ。僕の父はギター・プレイヤーで、家の中は常に音楽で溢れていたんだけど、現実的な考えをしていた当時の僕は「音楽をやって生活をしていける人なんて、ほんの一握りなんだ」って思っていたんだ。大学を終えて、文学士の資格を取得した時、一年かけてシングルを作ろうって決めてね。自分の名前が載ったアナログを作って、それを店頭においてもらうのが夢で、それだけがすべての目標だったんだ。でも実際にシングルを出してみると、すごく評判が良くて、また新しい楽曲を作るようになってね。気付いたら Soma とアルバム契約と交わしていたってわけさ。
Skrufff : その一年間の間は、どのようなことをしていたんですか?
Ewan Pearson : ケータリング会社で働いたり、ウェイターをやったりしてたよ。ごみ処理業者で働いたことも何度かあったな。それに、一度 FA カップ決勝戦の時にハンバーガー・ショップで働いたこともあったよ。最悪の経験だったけどね。リヴァプール対マンチェスター・ユナイテッドの試合で、本当に最悪だった。(Daily) Telegraph の読者の中には徴兵制度に賛成する人もいるけど、軍隊に入るよりサービス業で働くことの方がよっぽど効果的だと思うよ。人生で一度はハンバーガー・ショップで働くべきだね。
Skrufff : 以前のインタビューで、「ただ音楽を作るのではなく、作り方を考える…」と話されていましたが、それはどういう意味ですか?
Ewan Pearson : 時としてあまり良くないんだけど、僕には物事を分析しすぎる癖があってね。他のプロデューサーやフィルム・メイカーが音や映像の作り方なんかを話しているインタビューを読むのが大好で、いつも熱中してしまうんだ。というのも、制作作業ってものすごく孤独な活動で、果たして自分が他の人たちと同じようなやり方をしているかが気になってしまうものでね。だから、他のプロデューサーがいかに自分の作品が気に入らないかを話してたりすると、すごく勇気付けられるんだ。実際、ものすごく長い時間をかけて作った作品が気に入らなかったりすること時にはあって、そんな時、僕にとっての先輩プロデューサーでさえも、同じような気持ちになることがあるっていうことを知ると、すごく勇気付けられるのさ。それって、特にギター・バンドやインディー・バンドの音から感じ取れる姿勢とは全く正反対で、彼らはプレスに派手な露出をするために大口を叩くんだ。自惚れ過ぎって具合にね。Stone Roses や Oasis もそうだった。それに最近では Kasabian なんかがそういうスタイルだよね。いかに彼らが“神からの授かりもの”であるかをプレスに言いたい放題書かせるんだ。でも、僕の姿勢はそれとは全く正反対だから、たまに僕と同じような考え方をするプロデューサーの記事を読むと安心するのさ。
Skrufff : クリエイティヴな過程には、ある種のマジックが必要だと思われますか?
Ewan Pearson : 僕はお堅い合理主義者でね。個人的に“マジック”という言葉より、“セレンディピティー”(偶然何かを発見する才能)という言葉の方が好きなんだ。偶然に何かを発見するには、日ごろから努力していなきゃならない。2週間ほどフラフラしていれば、曲が頭の中に浮かんでくるってわけじゃないからね。常に楽曲を作り続けていると、上手く行かない時がほとんどだけど、すべてがパズルのように合わさる瞬間がある。そういった瞬間には、自分には才能があるかもしれないって感じるけれども、そのためには努力が必要なんだ。ごくたまに全く音楽とは関係ないことをやっていてアイデアを得ることもあるけど、いきなりアイデアが浮かぶ…あの頭の上の電球がピカッと光る、みたいなことは僕には起こらないんだ。
Skrufff : Depeche Mode や Pet Shop Boys といったアーティストのリミックスを任せられた際、どういう風に取り掛かり始めるのですか?
Ewan Pearson : アプローチの仕方や楽曲のスタイル、雰囲気といったもののうち、少なくともどれか一つに関するアイデアは持って取り掛かるんだ。何かしらアイデアは持って始めるよ。ただそれが制作の過程の中で大幅に変わる場合もあるし、それが面白い部分でもあるんだ。曲を作り始めの頃は、後で自分がどんな楽曲にしたくなるかなんて分からないだろう?僕には分からない。だから実際にやってみるのが一番なのさ。僕にしてみれば、それが波長が合うってことだと思うんだ。自分がすべてを完璧にコントロールしなくても、自然に出来る時は出来てしまう…。それって、すごくレアで素晴らしい感覚だよね。
Skrufff : 楽曲制作をストップするタイミングを見分けられる方ですか?
Ewan Pearson : 大体誰かが暴れて叫ぶ僕を機材から離して終る感じかな。見分けられないよ。だから僕はリミックス作業が好きなんだ。締め切りがあるからね。締め切ればくれば止めなくちゃいけない。Tracey と楽曲をつくり始めた時も、「楽曲が終わりに近付くまでは、素晴らしい時間が過ごせると思うよ。ただ、仕上がりに近付くにつれて、僕が曲作りを止めたがらないから、君は僕のことを殴り殺したくなってしまうだろうね」って彼女に伝えたよ。僕はだいたい本当に最後の最後の瞬間まで音を足したり、変更したりするタイプなんだ。
Skrufff : あなたがベルリンに移住して3年になりますが、実際に住んでみて、移住する前に予測もしていなかったような意外なことはありましたか?
Ewan Pearson : ベルリンのことを全く知らなかったから、移住するのがすごく楽しみだったんだ。移住する前は数回しか来たことがなくて、どんなことが起こるか全く予想できなかった。その時の僕は、自分の環境をすべて変えて、全く知らないところに飛び込んでいきたかったんだ。だから、全く予想していなかったことと言えば、僕がまだここに住んでいるってことと、すごく居心地良く感じてるってことかな。今年はもっとこの都市に馴染んで、言葉も学びたいと思ってるんだ。一応語学学校で3ヶ月勉強したんだけど、ここに来る前はドイツ語について何も知らなかったから初級程度しか学べなくてね。だから仕事と時間が許す限り、もっと努力して、きちんと話せるようになりたいんだ。
Skrufff : イギリスから離れることで、ホームシックにかかったり、イギリスのシーンと切り離されていると感じることはありますか?
Ewan Pearson : プロデューサーという立場で言うと、人と会ったり、ギグを見て新しいバンドを見つけるにはイギリスにいた方がいいのかもしれないけど、同時にそういったものから離れているのも僕は好きでね。常にシーンで何が起こっているかを感知しながら、自分のやりたいことを推し進めていくというバランスが大事なんだ。流行に惑わされるのは嫌だからね。だから少し切り離されているくらいが丁度いいんだ。離れていることで仕事に支障がないようにはしているつもりだしね。ドイツにいることで自分の音楽性にも影響を受けたよ。いろいろな影響を受けることはいいことだよね。ロンドンは大好きだし、楽しい時間も過ごしたけど、ロンドンだけがすべてじゃないからね。
Skrufff : トップ100に選ばれた DJ で構成される今日のクラブ・カルチャーについてどう思われますか?
Ewan Pearson : 僕は、音楽的に大ファンだったり、キャリアを通して知り合った DJ やプロデューサー、それに影響を受けたアーティストにしか興味がないんだ。トップ100の上位に付けたいなんて思わない。人々の前でプレイしたり、楽曲を作ったり、本当にアーティストらしいことができれば、構わないんだ。インターネットで票を集めるためじゃなくて、ギグをして、楽しむことに意義があるのさ。
Tracey Thorn の ”It’s All True” は Virgin から、 Partial Art の Trauermusic は Kompakt Records から発売中。
End of the interview
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