Dubfire こと Ali Shirazinia といえば - 2年前に活動を停止した大物ハウス・プロデューサーデュオ Deep Dish のAli Dubfire としての姿がまず思い浮かんでしまう人も、筆者含め未だ少数派ではないだろうと思うのだが、今はとりあえずそれを一旦頭の片隅に追いやってほしい - ソロアーティスト Dubfire として活動を始めて以来、新レーベル SCI+TEC Digital Audio の設立や、Cocoon Ibiza の MIXCDのコンパイラーを担当する等、これまで以上に旺盛な活動で、テクノ寄りのフィールドにもそのファンを広げている。
そんな彼が今年夏、Richie Hawtin との Back to Back セット "Click 2 Click" を突如、東欧最大のフェスティバル Exit Festival にて披露した。当サイトにも掲載されたスペシャル・レポートでいわば「クラブ界の両巨頭」の思わぬコラボレーションに狂喜した我々だったが、何と今年の WOMB ADVENTURE にて "Click 2 Click" のスペシャルショーケースが披露されることが決定。さらに、そのタイミングで、トップDJとして日々世界を巡る多忙な Dubfire に電話インタビューできる機会を得た。 "Click 2 Click" についてはもちろん、自身のレーベルや、バルセロナへの移住、そして Deep Dish 活動停止の背景についてまで、時折冗談まで交えながら気さくに、しかし非常に熱心に語ってくれた。
Interview & Introduction & Translation : Yuki Murai (HigherFrequency)
HigherFrequency (HRFQ) : まず、あなたの音楽的バックグラウンド、ダンスミュージックに関わりはじめたきっかけを教えてください。このような質問はよく聞かれてると思いますが…
Dubfire : 音楽に関わりだしたのは10代前半くらいのころで、当時はニューウェーブとか、ダブとか、なかでもドイツのインダストリアルなんかがすごく好きだったね。その頃、(Deep Dish のパートナーである) Sharam やほかのDJ達と出会って、Sharam と一緒に曲を作ったりするようになったんだ。それで、その後は Deep Dish として2人で15年くらい活動してたんだけど、Sharam はよりコマーシャルな方面を目指したくなったんだ。そうして、僕らはそれぞれ別々に活動することになった。それで今は僕はいわゆる『ソロ・アーティスト』なんだ。
HRFQ : なるほど…(ソロ活動の経緯については)そのような話を以前、あなたと親しいDJから聞いたこともあったのですが、やはりそういったことなんですね。
Dubfire : Sharam とは、当時はお互いのクリエイティビティーを共有していたけど、さすがに15年も一緒にやってると、それこそ結婚みたいなもんで、うまくいかない部分も出てくるってことさ(笑)。彼はよりコマーシャルに、僕はよりディープなものを目指したかった。今は彼は彼なりにうまくやってて楽しそうだし、いいんじゃないかと思うよ。
HRFQ : 「結婚」という例えが非常にわかりやすいですね(笑)。 それでは次に、あなたが Richie Hawtin と始めた新しいプロジェクト、Click 2 Click についてお聞きしたいと思います。まず、結成のきっかけはどのようなものだったのですか?
Dubfire : まず、Richie と僕はずいぶん昔に知り合いだったんだ。その後僕はハウス寄り、彼はテクノ寄りで活動するようになって、あまり連絡をとらなくなってしまった。だけど最近、あちこちのフェスティバルやギグで、彼の前に僕がプレイしたり、僕の後に彼がプレイしたり、ってことが結構あってね。そういう時に一緒に飲んだり、食事しにいったりしてたんだけど、そのうち、フェスティバルで2人で Back to Back のセットをやってみたら面白いんじゃないかという話になったんだ。それで、いろんなフェスティバルに声をかけてみたんだけど、そうしたら丁度 Exit Festival からオファーがあって、早速やってみようってことになったんだ。
「Click 2 Click」というのはもともとメトロノームのことなんだ。僕と Richie は合計8つのデッキで Back to Back をやってるんだけど…
HRFQ : えっ、8台ですか?
Dubfire :
そう、僕は4台のデッキとラップトップ、彼も4台のデッキとラップトップでプレイしてて、それぞれがラップトップで4台のデッキを同期させているんだ。プレイの始まりはラップトップから出るメトロノームのクリック音。それでデッキを同期させるわけだね。僕も Richie も同じソフト、Traktor を使っているから、「Click 2 Click」というのはそれぞれのラップトップ同士を連結して、メトロノームを合わせるところから始めようっていう意味なんだ。
これまでも Loco Dice をはじめ色んな人と Back to Back をしてきたけど、Richie との Back to Back はとりわけ『自然』な感じに思えるんだ。Exit での初ギグの翌日、僕も彼もそれぞれ別な場所でのギグが控えてたんだけど、一緒に空港まで行くことにして、その道中に2人で前日の録音を聞きながら「かっこいい!」とかって言い合ってたくらいだよ。なんかちょっと恥ずかしいけどね(笑)。
HRFQ : 実は私たちのサイトにも Exit Festival の写真が掲載されたのですが、あなたと Richie が一緒にプレイしたことを知り、皆とても大盛り上がりしていました。当日の写真を見ていても、あなたたちが2人ともすごく楽しそうにプレイしているのが伝わってきて、見ているほうもとても嬉しい気持ちになれました。
Dubfire : ありがとう!僕と Richie の大切な共通点といえば、2人とも日本のカルチャーの大ファンだってことなんだ。だから、その「日本のカルチャーを愛する気持ち」というのも、Click 2 Click を構成する大切な要素なんだよ。
HRFQ : 私達からもそれに関しては本当に「ありがとう」を言わなければいけませんね! 次の質問なのですが、TOP DJというご自身の意見として、最近注目しているシーンや地域はありますか?たとえば Exit Festival が行われているセルビアもそうですが、東欧、南米などは非常に勢いがある、と他のDJからもよく名前を聞きますが…
Dubfire : こないだも行ってきたけど、南米のシーンは今本当に素晴らしいよ。あとはやっぱりベルリンかな。
HRFQ : 最近、拠点をワシントンDCからバルセロナに移されたそうですが、どのようなきっかけがあったのでしょうか。
Dubfire : ヨーロッパでのギグが多いから、ヨーロッパに住みたいと思ったんだ。それにバルセロナには Loco Dice や Luka Bachetti といった友達も沢山住んでいるからね。
HRFQ : ではバルセロナに移った理由としては、そういったお友達やシーンの存在も大きいわけですね。
Dubfire : うん、それとやっぱり気候だよね。ベルリンと比べて暖かいし、それにヨーロッパのどこに行くにも特に困らないし…と考えると、ベルリンより断然バルセロナ!って思ったんだ。
HRFQ : それでは、現在改めて「外」から見たとき、あなたの地元アメリカのエレクトリック・ミュージックのシーンをどのように感じますか?
Dubfire : こうやって伝えるのも非常に残念なことなんだけど、あまり状況は良くないよね。もちろん、アンダーグラウンドな音楽シーンはまだまだ頑張っているとは思うけど、全体を見たときには圧倒的にコマーシャルなものばかりで、いい状況とは言えないな。
HRFQ : それでも最近、特にサンフランシスコやロサンゼルスといった西海岸側にヨーロッパから移ってきているDJもいたりしますが、それをどのように思われますか?
Dubfire : うーん、結局「となりの芝生は青く見える」ってことなんじゃないかな。僕はずっとアメリカで育ってきたから、いつかヨーロッパで暮らしたいと思っていたし、逆に彼らにしてみれば、いつかアメリカで暮らしてみたいって気持ちがあるんじゃないかと思うよ。
HRFQ : なるほど…。続いて、あなたが立ち上げた新レーベル SCI+TEC Digital Audio についてお尋ねします。このレーベルのコンセプトなどありましたら教えていただけますか?
Dubfire : Beatport の人たちから、デジタル・オンリーのレーベルを作らないかというオファーがあって、僕もデジタルでのリリースにすごく興味があったから SCI+TEC を立ち上げたんだ。「SCI+TEC」という言葉は自分で作ったんだけど、とても気に入っているよ。新しい "SCIENCE(科学)" と "TECHNOLOGY(技術)" が人間の生活を良くしていく、という思いが込められている。つまり、デジタルでリリースをするレーベルであること自体がコンセプトなんだ。
HRFQ : しかし、"Digital Audio" という名前ですが、実際にはアナログも同時にリリースしているものが何枚かありますよね。これはどうしてでしょうか?
Dubfire : 元々は本当にデジタル・オンリーのレーベルにしようとしていたんだけど、一部のプロデューサーにとってはまだまだアナログのリリースが重要らしくてね。それでアナログも出しているんだけど、また今後は本来の ”Digital Audio” として、デジタル・オンリーの路線に戻していこうと思っているよ。
HRFQ : アナログやCDを豪華なボックスにするなど、コアファン向けのプレミアム商品とする戦略を行っているレーベルも最近はありますが、それについてはどう思われますか?
Dubfire : そうだなあ、僕がもし日本でリリースするなら、そういうことをやるかもしれないな。
HRFQ : たぶん皆、買うと思います(笑)。
Dubfire : 実際、今度の来日の際には日本のレーベルとも話をしにいく予定があるんだ。 でも、日本は "SCIENCE(科学)" と "TECHNOLOGY(技術)"の国なのに、まだそういった「もの」が売れているのはすごく不思議に感じるんだけどね。
HRFQ : そう言われてみると確かに不思議ですよね…。ところで日本の話題といえば、SCI+TEC Digital Audio からリリースされた Shin Nishimura の 'Frustration' は、リミキサーの A. Mochi の起用も含め、日本のプロデューサーで固められていて、これは私たち日本のクラブミュージックファンには非常にうれしい驚きでした。こちらのリリースの経緯を教えてください。
Dubfire : Shin とは去年来日したときに会って、その時にいくつかプロモをもらったんだ。聞いてみたらすごく良かったから、リリースすることにしたんだ。その頃、ちょうど A.Mochi の事を知って、「彼がリミキサーならどうだろう?彼と連絡をとれる?」って Shin に聞いてみたら、「A.Mochi なら僕の友達だから、リミックスはすぐ頼めるよ」って返事が返ってきて。それで無事リリースとなったんだ。
HRFQ : 今後SCI+TECでリリースしていきたいと思っているアーティストや、もしくは音楽スタイルはありますか?
Dubfire : うーん、特にこのアーティスト、このスタイルってものはないんだ。いいものであれば何でもやっていきたい。僕のプレイするものも一緒で、ダブでも、ディープハウスでも、ミニマルでも、ハウスでも、パーカッシブなトライバルチューンでも、良いと思うものであれば、出していこうと思ってる。ただ、アーティストとしては Gaiser にすごく注目しているよ。
HRFQ : 今回の来日で楽しみにしていることはありますか?
Dubfire : 旅館!実は京都の旅館に泊まりにいく予定があるんだ。あと、今回の WOMB ADVENTURE は、今までプレイしたことがないような大きい会場でのギグだと聞いてるからちょっと不安なんだけど、Richie は去年同じ場所でやったのでどうにかなるかなって思ってるよ。それに、Josh Wink も一緒に共演できるのがすごく楽しみなんだ。僕も Richie も、彼とは長い付き合いだしね。
HRFQ : 3人の夢の共演を期待していてもいいでしょうか?
Dubfire : そうだね、何が起こっても不思議じゃないよ! まあ、みんなサケ(日本酒)を飲みすぎて、誰もまともにDJできないかもしれないけどね(笑)。
HRFQ : (笑)。それでは、今後のご予定を教えていただけますでしょうか。
Dubfire : まず、来年は Click 2 Click の活動をさらに発展させていこうと思ってるよ。Richie とは今後どんな新しいテクノロジーを取り入れていこうか話しあってるところなんだ。たとえばヴィジュアルアーティストとの共演とかね。
HRFQ : ヴィジュアルアーティストといえば、たとえば MINUS クルーの Ali ということもありますか?
Dubfire : (明言せずに)うん、もちろん彼のことはよく知ってるよ!彼は中東出身だし、知っての通り、僕も中東がルーツだから気が合うんだよね。
HRFQ : 本日はお時間ありがとうございました。WOMB ADVENTURE であなたに会えるのを楽しみにしてる日本のファンにメッセージをお願いします。
Dubfire : いつも僕達の活動を支えてくれて本当に感謝してるよ。Click 2 Click の音楽が日本のみんなのバイブレーションに出会ってどんなものが出来上がるのか、僕達もすごく期待してるよ。では WOMB ADVENTURE で会おう!マタネ!
End of the interview
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