あの DJ Harvey が8年ぶりに日本の地を踏む。「アメリカから出られないらしい」 「もう日本に来られないのでは?」……様々な憶測が飛びかってきたものの、突然の来日にダンスシーンが色めき立っている。
80年代後半。英国でレイヴカルチャーが産声をあげる。多くのDJが性急なビートにとりつかれたが、Harvey のDJは一風変わっていた。英国の労働者階級が育んできたノーザンソウル、レゲエ、ロック、ニヒルな英国蒐集盤文化に照らされたジャズ、ラテンまでを内包する ―― 後に 「NUハウス」 と呼ばれたそれは、とことんミュージカルな代物だったと呼べるだろう。いま、様々な音楽を呑みこんだモダンなディスコミュージックが草の根のように世界各地に広がっているが、その根を辿っていくと一本の幹につきあたるだろう。それが DJ Harvey だ。あらゆるものを可視化するネットワーク社会の中で、8年もの空白期間のあったナマの DJ Harvey はまさに 「秘境」 だ。オーディエンスが色めきたつのも理解できない話ではない。
そんな DJ Harvey が遂に日本に降り立った。無事入国できるのかすら危ぶまれていた「伝説」を今まさに目の前にし、一体アメリカで何をしているのか、半ば幽閉に近いとさえ言えたかの地での暮らしは何だったのかを尋ねてみた。
Interview and Introduction : 岡本俊浩
Interpretation : HigherFrequency
Translation : Shogo Yuzen
Artist coordinated by HITOMI Productions
Thanks : Crue-L Records
-- LAでの暮らしぶりはどう?
DJ Harvey : 全体的にいい感じだよ。実は生活の半分はロサンゼルス、もう半分はハワイのホノルルで過ごしているんだ。天気もご飯も良いし、ベニス・ビーチには素晴らしいコミュニティーもあって、楽しい生活だよ。ハワイはもちろんパラダイスだしね!サーフィンしたりして、遊んでるよ
-- サーフィンはいまもよくやっている?
DJ Harvey : ああ。カリフォルニアではあんまりやらないけど、ハワイではやるよ。カリフォルニアでも海の近くに住んでるんだけど、僕は痩せてるからすぐ寒くなっちゃうんだ(笑)
-- 寒いの?
DJ Harvey : ハワイに比べるとね。夏は水温が70F (約20℃) ぐらいにはなるんだけど、冬場は50Fとか60F (約10℃〜約15℃)ぐらいだから、僕にとってはちょっと寒すぎるかな。
-- 日本に来るのは8年ぶりだと聞いています。そして、ワールドツアーも8年ぶり。率直な感想を聞かせてくれる?あと、なぜこんなに長い間海外でのパフォーマンスを行わなかったのだろう。
DJ Harvey : 何が起きたかって言うと、アメリカが楽しすぎて、アメリカにいる内にビザが切れちゃったんだよ 。その問題を解決するのに8年もかかっちゃったんだよね。普通はそんなに長い期間かかるもんじゃないんだけど、僕はそれだけかかっちゃってさ。その8年間にもアメリカやもちろんハワイでツアーはやってたんだけど、こうやってまた日本や世界中を旅できるのはすごく嬉しいよ。
今回のツアーは、2週間半の間に12都市で13回もギグがあるし、きっと僕が今までやってきたツアーの中でも一番内容の濃いものだろうね。すごく楽しみだし、刺激的だね。(前回の) 日本ツアーでも素晴らしい時間を過ごし、おいしい食事を楽しませてもらったからね。もちろん日本だけじゃなく、ヨーロッパやイングランド、他のアジアの国、シンガポールやマレーシアにも行けるから楽しみだよ。
-- なるほど。じゃあ、次は何を聞こうか…
DJ Harvey : Locussolus の話なんてどうかな?Locussolus は一番最近僕がやってるレコーディング・プロジェクトで、ウルグアイのレーベルの International Feel からリリースしてるんだ。今セカンドシングルを作ってて、年末までにはアルバムとか、何かしらの形でCDをリリースしたいと思ってるよ。すごく楽しみだし、良い反応ももらえてるから、すごく満足してるよ。
これは…なんて言ったらいいのかな?原始的かつ、未来的な音楽なんだ。僕にとってはエジプトのピラミッドみたいなものなんだ。すごく古いけど、でもまるで宇宙から来たような感じ?だから今回の作品もすごく現代的なんだけど、古代のフィーリングを持ってる。それを今回はコンセプトにしてるんだ。
-- International Feel とはどんな風に関係が始まった?
DJ Harvey : う〜ん…どうだったかな…最初に彼らがオファーをくれて、僕の音楽をリリースしたいって言ってくれたんだ。彼らはすごくプロフェッショナルなんだけど、 でも僕の好きなことをやって良いって言ってくれるし、本当に良いレーベルなんだ。だから僕も彼らに魅力を感じたし、ウルグアイでレーベルをやってるっていうのもすごく面白いと思ったんだよね。。
-- International Feel の作品はヴァイナルでリリースされてる?
DJ Harvey : そうだね。リリースの形態はヴァイナルだよ。CDでリリースはしてないと思う。だけど、彼らのウェブサイトや iTunes でファイルを購入することはできるよ。
-- なるほど。そんな風にこの8年、音楽文化では大きな変化があって、音楽ビジネスの形は過去数年で劇的に変化を遂げてるけど、これについてはどう思う?
DJ Harvey : そうだね。少しずつ変わってるとは思う。だけど、僕はいつもテクノロジーの面では時代には乗り遅れてるんだ。例えばつい3日前に初めて、パソコンを買ったばっかりだしね。新しい世界が拓けた感じだね。デジタル配信とか音楽ダウンロードは、すごくいいことだと思ってるよ。製造費もかからない分、値段も安いし、みんなにとって簡単に音楽が手に入るようになってるってことだからね。
個人的にはヴァイナルの方が音がいいし、レコードを聴くっていうこと自体が好きなんだよ。だけど、若い人たちにはヴァイナルは高すぎるだろうし、コレクターか、DJ、もしくはすごくレコードが好きな人じゃない限り、デジタルで音楽を購入する方が今は良いんじゃないかな?
-- これはDJにも影響を及ぼしていると思う?
DJ Harvey : DJは、Serato だとか、他のソフトが出てきたことで変化していってると思うよ。もちろんそれによってより沢山の曲を持ち込めるようになったしね。僕はコンピューターの使い方をよく知らないけど、WAVかマスターファイルみたいな音質のいい物を使わずに、mp3 とかでプレイしてるとすごく音が悪いな〜って思う。だけど、別にそれがあるからってDJが助けられてるとも思わないよ。DJには出来るか出来ないかしかないんだ。
いいDJはどんなものを使ってもDJが出来る。僕にとってはフォーマットはあんまり関係ないんだ。パーティーを作り出せるかどうか。それが大事だよ。
-- じゃあ、もっとDJ本人の問題?
DJ Harvey : そうだね。テクノロジーはそんなに関係ないと思うよ。それを使って自分のメッセージを伝えられるかどうかだね。
-- 将来的には、パフォーマンスにノートパソコンを持ち込んだりするのかな?
DJ Harvey : いや、僕がパソコンを使ってDJをすることは多分今後も無いだろうね。ヴァイナルに触れることが好きだし、やっぱりヴァイナルの方が音が良いと思うんだ。ヴァイナルでプレイ出来る環境なら、ヴァイナルでプレイするようにしてるよ。
最近ではCDRでプレイすることも増えてきたけど、出来るだけ良い音質のファイルのものを用意して、良いプレイヤーに良いコンバーターでプレイするようにしてる。もしかしたら、僕の曲をパソコンにアーカイブで作るかも知れないけど、もしそれをプレイするならCDRに焼いてプレイするかな。
-- あなたは途方もない量のレコードを聴いてきた。そんなあなたがかけるレコードはとても個性的ですよね。個性的なレコードを発見するためのコツがあったら教えてくれない?
DJ Harvey : 頑張り過ぎないこと(笑)。もちろん常に良い音楽や新しい音楽を見つけたいとは思ってるけど、そんなに頻繁にレコードを買いに行ったり、ディグしたりはしてないんだ。本当に良いレコードを一枚見つければ、その一枚を何年も聴いて、プレイし続けられるからね。別に秘訣は無いかな。今では別にレア・レコードなんていうものも無いしね。何だってダウンロード出来てしまうし。例えば、'Do I Love You?'ってレコードがあるけど、そのレコードは世界に3枚しかなくて、もの凄く高価なレコードなんだ。だけど、今ならネット上でダウンロードして、CDRに焼いてプレイ出来てしまうだろ?
さっきのデジタルリリースについての話でも言ったけど、今は歴史上にリリースされたレコードを何だってプレイできるような時代なんだ。だから前みたいに 「あの曲は手に入りにくから」 なんていう言い訳は聞かなくなったんだ。本当にDJ自身が問われる時代だよ。何でも選べる中から何を選んでプレイするのか?ってね。
-- 最近の楽曲制作について教えてくれる?
DJ Harvey : 一番最近では、さっき話した International Feel の Locussolus だね。ベニスビーチにあるモーフォニックスっていうスタジオで 制作してて、僕の家から歩いていけるところにあるんだ。新しい制作はすごく楽しみだね。最近ではもっと現代的なテクノロジーや新しいプラグインやプログラムを使って作ってるからね。 だから、今回の作品はアナログやテープレコーディングみたいな感じじゃなくて、もっと現代的なプロダクションになってきてると思う。
-- DJプレイをしてる時や制作をしてる時、物語を構築するような意識は常に持っているのかな?
DJ Harvey : そうだね。一夜を物語全体として、1つの曲をセクションや段落として考えたら、そうかも知れない。だけど、前もってそれを考えたり、プランするようなことはないよ。たくさんのレコードを持っていって、パーティーに来てる人たちが物語の行く先を選んでゆくって感じかな。
僕は寿司職人みたいなもんだよ。一貫出してみて、その反応を見て、次に何を出すべきか考えるんだ。そして、食事の終わりには満足してもらえるようにするっていう感じ?
-- 英国でレイヴカルチャーが生まれてもう20年以上が経つ。以前に行ったインタビューであなたは、 「'88年、'92年などというのは実際に意味はなく、その人にとって特別だと感じる夏があれば、それはその人にとってのセカンド・サマー・オブ・ラヴになる」 といった類のことを話していたけど、その考えはいまも変わりないかな?
DJ Harvey : そうだね。僕は今が一番素晴らしいと思ってるよ。過去に生きてる人っているでしょ?もう過ぎた時間が一番良かったと思ってる人…。僕はそうじゃないんだ。その時は素晴らしい時間を過ごしたけど、今はもっといい時間を過ごしてると思う。そして、今がもう思い出なんだよ。だって20年後には今を振り返るんだからね。
だから、今を最高の時間にして、明日を最高の時間にする。そうやって生きるべきだよね。過去を振り返ってばかりではいたくないんだ。常に明るい未来の方を向いてたいと思う。
-- 今回の日本ツアーではどんなことをしたいと思ってる?
DJ Harvey : "Eat, Sleep, Play Records" だね(笑)。 他のことをやる時間がないんだ…ショッピングも出来ないし、観光にも行けないよ(笑)。
-- すごくストイックだね…そういえば、2週間禁酒してるって聞いたけど?
DJ Harvey : そうなんだ。今回のツアーに向けてのトレーニングなんだよ。
僕は酒を飲むのが大好きなんだ。別に週一でDJをしてるなら、思いっきり酔っ払って、2日間ぐらい休めばいい話なんだけど。
でも今回のツアーはギグの連続だから、出来るだけ体調には気をつけてるんだ。
今の時点で3週間禁酒してるんだけど、多分このツアーが終わるまでは酒は飲まないかな?いや、最後の最後に飲むかも。ツアーの一番最後は20分ぐらいの長さのレコードをかけて、サントリーのボトルでも一気飲みしようかな(笑)。
-- どんなお酒が好き?
DJ Harvey : ウィスキーもビールも好きだよ。大体いつもは ジャック・ダニエル を飲んでるかな。シングル・モルトのウィスキーがすごく好きなんだけど、特別な時にしか飲まないね。ジャック・ダニエルはロックンロールなウィスキーとして知られてるけど、あれは魔法の酒だね(笑)。
でも、今回は本当にわざわざ時間を割いて、お金を払って来てくれてる人たちのために良いコンディションでいようと思ってる。
せっかく来てくれたのに 「オエ〜」 とか言ってるのはナシでしょ?(笑)。
それで3日後に元気になってたらどうしようもないよね。ハワイで正月を迎えた時は飲みすぎて、プレイ出来なかったんだ。だからもう二度とあんなことは無いようにしようと思ってる。全く飲まないわけじゃないけど、ちゃんとプロフェッショナルでいないとね。
例えば、Sly Stone は先週末の Corchella でライブをやったんだけど、飲みすぎて、ステージに上がった時からベロベロで何もできなかったらしいんだ。
僕はそこにいなくて、話を聞いただけなんだけどね。そんなケースもあるから、僕はそうならないようにしようと思ってるよ。
だから今回のツアーは 「DJ Harvey Eating & Sleeping」 ツアーってことで。
-- では最後に、8年間待っていた日本のファンたちに一言。
DJ Harvey : 長い間待っててくれてありがとう。本当に日本に戻って来れて良かったと思ってるよ。
すごく楽しみだし、みんなにも楽しい時間を過ごしてもらえたらいいなって思ってる。本当それだけだね。
"Love is The Message."
そして、最後にもう一言。
"The Past is History, The Future is Mystery."
End of the interview
【DJ HARVEY 2010 tour of Japan】
2010/4/23 (Fri) @ NEST, Utsunomiya
2010/4/24 (Sat) @ PRECIOUS HALL, Sapporo
2010/4/25 (Sun) @ BASSMENT, Asahikawa
2010/4/28 (Wed) @ MAGO, Nagoya
2010/4/29 (Thu) @ ASIA, Aichi
2010/4/30 (Fri) @ MUGEN, Hiroshima
2010/5/1 (Sat) @ RAISE, Ohta
2010/5/2 (Sun) RAINBOW DISCO CLUB @ 晴海客船ターミナル臨港広場特設ステージ
2010/5/3 (Mon) @ DECADENT DELUXE, Fukuoka
2010/5/4 (Tue) @ PRAHA, Niigata
2010/5/5 (Wed) @ OPPA-LA, Enoshima
2010/5/7 (Fri) @ TRIANGLE, Osaka
2010/5/8 (Sat) @ eleven, Tokyo
*Artist promoted & Tour coordinated by HITOMI Productions, Inc.
関連記事
SPECIAL : RAINBOW DISCO CLUB (2010/04/16)
関連リンク