HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

過去にはパリやベルリンで活動し、そのソリッドかつヒネりの効いたミニマルトラックをドイツの Snork Enterprise やフランスの Minibar からリリースを重ねている日本人トラックメイカー ditch。2年前に帰国して以降は東京とop.disc を活動のベースに定め、海外のレーベルからのリリースも引き続き継続しながらも東京のアンダーグラウンドなテクノ・シーンの最も深い部分に根を下ろし、ローカルなパーティの現場とワールドワイドなリリースを直結させた独自の活動を繰り広げている。

この4/24には代官山 UNIT にて Snork Enterprises でのレーベルメイト Jens Zimmermann をはじめ田中フミヤ、TEN など、ditch 自身最も尊敬していると語るアーティストたちとの共演を控えている。ふだんはクールで飄々としたキャラクターの彼だが、内側に秘めた音楽とその現場に対する想いはきわめて熱い。今回は雑談も交えながら、そんな彼のアーティストとしての内面の一端を覗いてみようとインタビューを試みた。

Text + Interview : kohei terazono

triangle



-- まずは一番最近のリリースのことから聞きたいんだけど、ドイツの Snork Enterprise から出た 'Manse Al EP' はもともと作りためてあったトラックだったの?

ditch : 作りためていたというより、ちょうど作ったものを Snork に聴かせてみて、それでじゃあリリースしようか、という流れでした。

-- フミヤさんにリミックス依頼したのはリリースが決まってから?

ditch : リミックスを入れようってアイデアは Snork 側からのオファーで、Snork をやってる人達もフミヤさんのことは Tresor でリリースしてた頃から知ってたということもあって。 それで俺もいいアイデアだと思いフミヤさんに依頼しました。


-- いろんな点でタイミングが良かったんだ。'Manse Al EP' なんだけど、すごくキックの鳴りが ditch らしい感じだよね。スリックというか、つるつるに磨き上げた質感。色で言うと真っ黒な。

ditch : それはどっちのキックの音ですか?

-- A1のほうだね。

ditch : 'Manse Al EP' のA1とB1、2つのトラックはそれぞれ違うキックを使っていて、B1の 'after' で使用したキックは自分にとっては初めて扱う音にしたので 今までのキックとはちょっと毛色が違うんですよ。 でも bass とかlow の処理は普段通りだと思うので、らしさみたいなものは自然に出てるのかも。

-- A1はたしかに ditch らしい感じがにじみ出てる。B1の 'after' はなんて言ってたらいいんだろう、すごく厳しくてシャープな音色を使ってたよね。

ditch : A1はレコードで鳴らすってことをまず意識してたような気もします。 B1はその場で鳴らしながら録音していったのでちょっと激しさもあったかもしれません。 厳しいっていうのはどういった意味で?

-- 厳しいっていうのは音色そのもののシャープな質感や、まさにそういうライブっぽい激しさから感じた鋭い感触みたいなもの。ネガティヴな意味合いは全くなくてね。

ditch : シャープなのは低音の重なりが減ったからそう聞こえるのかもしれない。 もう一つ付け加えると、自分らしさ、自分らしい音の鳴りっていうのはそんなに自分では把握してなくて、ただ、op.disc の "hub2009" のコンピのトラックと Snork からの 'Manse Al EP' の A1 は制作した時期がわりと近いので、リリースの時系列順で追って聴くと、結果としてこの2つは近い音にはなっていると思います。それが"らしさ"にもつながってるのかもしれない。

-- 前に ditch へインタビューしたのは2年前、op からのアルバム "ditch weed" のリリース直後でそのころはditch もヨーロッパから帰ってきたばかりで東京へ引越す直前だったよね (myspace.com/opdisctokyo の Blog 参照)。あれから2年、現在まで東京で活動してるわけだけど、そうした環境の変化が音楽の捉え方や作り方に影響はあった?

ditch : もちろん変化は大きくあったと思います。 いろんな出会いで人から受ける影響もあったし、東京に住む事で、見ている街の変化が自分にも影響がありますね。

-- ditch はけっこういろんなパーティや場所にすすんで出掛けて行くじゃん。自分がライブで出演しているパーティで、自分の出番以外でもフロアでしっかり楽しんでるし。音が鳴っている現場に対する愛着や思い入れをすごく持っているアーティストだなと思うんだけど、ditch 自身でその辺は意識してるところがある?

ditch : 意識というかまあ、もう単純に好きなだけですかね。 さっきの音楽の捉え方が変化するっていう答えの一つにもなりますが、現場でキャリアを積んでる人と多く繋がることができた事も大きいのかもしれません。 やっぱりキャリア長いDJの人はそれぞれ、それなりの答えがあるっていうか・・・ なにかしら反応するもの、説得力に近いものがありますね。

-- たとえばditchといちばん近いところで言うとヨシキさん (op.disc / Runch) とか?

ditch : まさにそうですね。ヨシキさんは絡む機会がすごい多いしDJも大好きです。あとテンさん (STERNE / ERR) とかもそう。

-- ditch 自身はトラックメイカーという立場で、いわゆる音楽の現場や環境に対して 「もっとこうだったらいいのに」 って思うところはある?

ditch : まずはもっと単純に良い音響を提供してくれるハコがいろんなとこにあったらなー、とか。うーん、あとこれはあまり具体性を伴った話ではないという前提なんですけど・・・もっと意識を外に向けてみようよ、ってことかな?

-- それは音そのものに対して?

ditch : そうですね。音に対するオープンさというか。

-- ditch の創るトラックって、意識が外に開いている印象があるよね。まず音を聴いてくれる人ありきで、決して軽々しく内省に入り込まないというか。個々の音色はすごく作り込まれてるけど、それが自己満足に終わってない。

ditch : 僕の場合、トラックを創ったりライブをする時はなるべくシンプルに外向きの意識をもって望むようにしてます。いちおうテクノっていうフォーマットに則ってやっているけど、そのフォーマットを崩したり捻ったり、他の人が決して使わないような音をなんとかしてテクノなグルーヴの中に嵌め込んでみたいとか、あとは・・・単純に聴く人に対して音そのものを通して驚きを与えてみたいっていう意図とか。東京に越してきてもうずいぶん経つんですけど、やっぱり都市で暮らしていると知らず知らずのうちに意識が内向きになってしまう傾向があるなと感じていて、だからこそ、せめて音楽というプラットフォームの上では自ら進んで意識を外に向けて行きたいと思っています。

-- その「意識を外に向ける」ってことは、音楽を聴きにくる人達に対しても大事なことかも知れないね。その場で鳴っている音を純粋に楽しんでみる、とか。

ditch : その通りですね。

-- そういえば今度の4/24は UNIT で Zimmermann、フミヤさん、テンさんと一緒じゃん。すごい楽しみなメンツだよね。ditch の好きな人ばっかり。

ditch : このパーティはほんと、すごく楽しみですね。 個人的にこのメンツと一緒にパーティ出来るってことがとにかく嬉しいです。

-- 最近ライブセットを一新したって言ってたよね。テクニカルな領域にも踏み込んじゃうけど、判る範囲で教えてもらえるかな?

ditch : 一新したというのは機材面での環境ではなく、操作性とか変化の付け方としてやり方を変えてみたという意味ですね。 今までよりも長めのサンプルを増やして、セット全体の流れをより把握して大きい変化をさせたかったんです。 まだ模索中ということもあって、完全には慣れていないんですが。

-- なるほど。ditch って、いわゆる「テクノだけを聴いてテクノを創ってる」ってタイプのトラックメイカーじゃないよね。

ditch : それってみんなそうなんじゃないですか?

-- うん、でもヨーロッパの奴とかでたまにいるじゃん。ま、それは良くも悪くもなんだろうけど。最近、普段のクラブ以外ではどういうものを聴いてるの?

ditch : ここ半年ぐらいで出会ったのは Radian ってバンドいいですよ。 友達に教えてもらったけどかっこよかった。 Martin Brandlmayr ってドラムの人が絶妙なリズムです。 あと、これも誰かに借りたCDで知ったんですけど Badawi ってパーカッショニストの人。 Skull Disco で Shakleton の remix なんかもしてて、いい音楽ですよ。

-- Radian いいね。オーストリアのバンドだよね。 ditch が Badawi に引っかかるのも決して意外じゃない気がする。

ditch : Radian 良すぎですよ。Badawi とかもはや奇怪。 両方とも曲全体の key が完全に好みです。

-- じゃあ、テクノのフィールドの中で「こいつ、やるなー」って最近思ったアーティストっている?

ditch : そうですねー・・・。 最近、というかいいアーティストは多いので絞るのは難しいですね。 Robag Wruhme の最近のリリースされた音(Circus Company からの12インチ)は彼の初期の良さ戻ってきた感じがしてよかったですね。 Alex Smoke のアルバムも昨日聴いたらよかった。 Vakant 初期の尖った先進さをもっと浮き彫りにしてるイメージで彼の音は好きです。

-- うん、Robag は Wighnomy のコンビ解消して正解だったね。 ずっとツアーばっかりの日々だったから、おそらくスタジオにじっくりこもりたくてしょうがなかったんだろうね。 Vakant 初期の、ああいうエッジの立った感じが好きっていうのも納得だな。

ditch : そっか。コンビ解消後に制作したなら納得できる。 Alex Smoke の本来はあっちなんだなって思います。

-- ところで、ditch 自身のトラックで今後リリースが決まってるものってある?

ditch : リリース予定はないんですが、いまは友達の remix を2つほど今やっています。 このインタビューのタイミングであればよかったんですけどねー。

-- じゃあ最後に、今後の活動でこんなのやってみたいってことは?

ditch : 今後の抱負としては、色んな人とコラボレーションして一緒に何かカタチにできたら楽しいと思うし、とにかく自分のペースで好きにやっていければいいなと思います。

End of the interview





【ditch Live Info】

2010/4/17 (Sat)
PICASSO @ sunsui, Osaka


2010/4/24 (Sat)
root & branch presents UBIK feat. JENS ZIMMERMANN - Special Live Set !! @ UNIT, Tokyo






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