日本のクラブミュージック・ファンの中で絶大な人気を誇るフランス出身のDJ/プロデューサーDimitri From Paris。勿論、世界規模での名声は言うまでもないが、そのオーガニックでレイドバックしたサウンド・スタイルと、洗練されたアーティスト・イメージで、日本での人気は特に目を見張るものがあると言えよう。今年の初め、Defected Recordsがリリースする大人気コンピシリーズ"in the House"のコンパイラーとして抜擢され、その素晴らしい選曲で同作品を全世界で8万枚を超えるヒットに導いたばかりのDimitri。去る7月9日に代官山AIRで開催された同コンピをコンセプトに据えたイベントの為に来日し、再びその華麗なプレイを日本の熱狂的なファンに披露してくれた。そんな彼に、HigherFrequencyがイベント開始前の時間を借りてインタビューを行い、彼の音楽観などについて話を聞いた。
> Interview & Photo : Ollie Beeston _ Translation & Introduction : H.Nakamura (HigherFrequency)
HigherFrequency (HRFQ) : 今夜は、あなたの作品を良く知っているオーディエンス相手にプレイする事になりますが、どんなお気持ちですか?
Dimitri From Paris : また日本に来ることが出来て嬉しいよ。君が今言ったとおり、日本のファンは僕の音楽をよく理解してくれているし、やっぱり自分のやっている事にキチンと付いてきてくれる人達に向かってプレイするのは楽しいからね。それにそう言う環境だと、新しい事にチャレンジする事も出来るでしょ。逆に自分の音楽を全く理解していない人が多い時には、かなりイライラしてしまうよ。
HRFQ : 日本のハウスミュージックのシーンとクラブに関して、どんな印象をお持ちですか?
Dimitri :西洋の他の国とは違って、日本の人達は音楽を聞くためにクラブに来ているって感じがするね。西洋ではクラブはどちらかと言うと「社交の場」と言ったニュアンスで捉えられている場合が多いけど、日本は違うと思うな。カラオケに行くみたいに社交をする為にクラブに来る人もそんなに居ないと思うし。少なくとも僕の経験から言うと、日本のクラブはより音楽的な志向が強いし、その面ですごくレスペクト出来る存在だね。
HRFQ : DefectedからリリースされたあなたのミックスCD "In The House"ですが、この人気コンピシリーズから作品を出すに当たって、何か意識した事はありますか?
Dimitri : 今までこのコンピレーション・シリーズには、そこにフィーチャーされているDJのサウンド以外に、何か特別な「サウンドカラー」の様なものはなかったと思うんだ。特に彼らの方から「何かに合わせてくれ」みたいな指示もないし、ただそれぞれのDJが自分のスタイルでプレイする・・・そこがこのシリーズの良いところなんだと思う。その意味で、僕の今回のミックスCDに関しても、自分のサウンドをキッチリと伝える事が出来たし、とても満足しているよ。
HRFQ : この作品に関しての世界的な反応は如何ですか?
Dimitri : 今のところはとても良いね。日本だけで1万枚近くは売れたと聞いているし、全世界では8万枚売れたらしいよ。
HRFQ : 今回の作品の中で、特に気に入っている曲はありますか?
Dimitri : やっぱり新しい曲と古い曲をミックスしていくのは楽しかったな。僕自身もそう言った感じのスタイルで知られているしね。でも、本当に嬉しかったのは、Lil Louisの"New Dance Beat"を収録できたって事かな。Lilはいつも、自分の曲を誰に貸すかと言う事に対して、とても慎重に吟味する人なんだけど、今回は僕に対しての好意と言う事で特別にこの曲を貸してくれたんだ。「普段はこう言う事はしないなんだけど、君は僕のファミリーだからね」と言ってくれたのは嬉しかったね。
HRFQ : それに対して、あなたの最新のスタジオ・アルバム(注)は、ちょっとレイドバックしたイージーリスニング的な要素を備えていると思うのですが、今夜のAIRでのプレイは、それとは異なった感じになるのでしょうか?
Dimitri : さっきも言った通り、僕のDJとしての側面は、Defectedの作品や"A Night at the Playboy Mansionシリーズ"のような「人を躍らせるための」ミックスCDに一番良く現れていると思う。DJは人を躍らせる為に存在するわけだからね。でも、自分自身のアルバムを作る時には、必ずしも人を躍らせる必要はないし、何でもアリのオープンな姿勢で臨んでいるんだ。だから、自分の曲に関しては、もっとレイドバックしてリラックスした、どちらかと言うとホームリスニング的なものを意識するようにしている。あくまで、DJをやる時にプレイする音楽と、オリジナルアルバムに収録されている音楽はある種別物って感じでね。今夜プレイする曲は、どちらかと言うとミックスCDに収録されていたような内容になると思うよ。
(注) Cruising Attitude - 日本では2003年に先行発売されているが、ワールドワイドでは今年の7月に発売)
HRFQ : フランスのミュージック・シーンには、Daft PunkやCassius、Airといったアーティストも活躍していますが、あなた自身の音楽は現在のフランスの音楽シーンでどういった感じの位置づけになっていると思いますか?
Dimitri : みんなのサウンドはそれぞれ違うと思うよ。Daft Punkは僕の音楽よりハードなものをやっているし、それに、僕のサウンドがよりオーガニックでアコースティックな感じであるのに対して、彼らのサウンドはもっとエレクトロニック・ミュージックよりでしょ。それにAirのサウンドはもっとチルアウトした感じだし。これは、それぞれが自分自身の小さな居場所みたいなものを持っているって事であって、みんなのサウンドが同じに聞こえる事はないと思うんだ。まぁ、そのおかげで僕らそれぞれが個性を持ったアーティストとして受け入れられているわけだから、良いことだと思うけどね。何か違ったものをお互いそれぞれが持っていなければ、こうは行かなかったわけだから。
HRFQ : 最近のハウスシーンを席巻しつつある、エレクトロのリバイバルについて、どのように感じていますか?何か影響を感じた事はありますか?
Dimitri : スゴクおかしな事だと思ってる。だって、僕は今40歳になろうとしていて、DJを始めたのは25年前なんだけど、こんな風に何かのトレンドが戻ってくるのを見るのは初めてだからね。もちろん、僕にとっては全て昔聞いた事があるサウンドばかりで、今更アピールするものは何もない。でも、今の世代のオーディエンスは年齢も若いから、僕みたいな大人の視点で物事を捉えたりはしないんだろうね。ニューウエーヴが全盛の頃、僕は20歳。当時はそのサウンドをとても新鮮に感じたけど、今ではそれほどでもない。多分、それだけ僕が年をとったという事かもしれないけど・・・。まぁとにかく、みんなが今の流れをあるひとつのジャンルとして捉えてようとしている事は理解できたとしても、僕自身が昔みたいは心を動かされる事はないだろうね。
HRFQ : あなたがかつて手がけて有名なリミックス作品の中に、完全に生楽器を使ってリミックスされたと言われているStetsasonicの"Talkin' all that Jazz"がありますが、どうしてコンピューター・サウンドを排除しようと思ったのですか?
Dimitri : それは、僕が生のサウンドとアコースティックなものが好きだからさ。もし、そのアプローチが上手く行かなかったり、ミュージシャンを雇うお金がなかったりしていたら、コンピューターを使い始めていたかもしれない。でも、幸いな事にいつもそれなりの予算があったし、コンピューターを使わずにどうやって良いものを作るかという事を考える余裕もあったんだ。僕は、コンピューターは単なるツールとして存在するべきものであって、音楽を作るための絶対的な手段である必要はないと考えている。それに、100%エレクトロニック・サウンドで作られている音楽も好きじゃない。だから、ミュージシャンを起用できる時は、自分の追い求めている感覚を得る為になるべくそうするようにしているし、DJをやる時も、生音が入っている曲を好んでプレイするようにしているんだ。そっちの方が、コンピューターで電気的に作られた音より温かみがあるから好きなんだ。
HRFQ : 今後の予定は?
Dimitri : 今は、Joey Negroと一緒にコンピレーションの制作を行っている。彼はディスコやレアグルーブの影響を大きく受けている事で知られているプロデューサーで、まずはこの作品を出そうと思っている。その次には、Defecterdコンピのフォローアップ的な作品を出す事になるだろうね。
HRFQ : 今注目している日本のアーティストは誰かいますか?
Dimitri : うん、Flower Recordsが手がけてきた色んなアーティストはいつも聞いているね。あと、Mondo Grossoもいつもエキサイティングな事をやっているから好きかな。僕のコンピレーションに入った作品も幾つかあるしね。
HRFQ : 今DJを目指して頑張っている人に何かメッセージは?
Dimitri : 僕は自分のやりたい事をやってきただけだし、みんなもそうするべきだと思う。もし情熱があるなら、それを出来るだけ大切に育てていくべきだし、面白そうな事があったら何でもトライしてみるべきだ。君のサウンドがありきたりのものである限りは、決して目立った存在にはなれなし、常に人と違った事にチャレンジするようにしないとダメだと思うよ。
End of the interview
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