HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Craig Richards


「ミニマルっぽい音が主体になっているとしても、僕にしてみればミニマルの意味は、複雑と混乱の反対でしかないんだ。僕が楽しむのはそのトラックの雰囲気なのさ」彼はこのように、トラックの雰囲気も、トラックそのものと同じくらい大事であることを語った。

東ロンドンのスーパー・クラブ Fabric にてレジデントを務めること6年間、現在でもクラブのコアDJとして活躍し、"ミニマル" 調達屋として知られる Craig Richards 。ただ、彼はそのようなジャンル的レッテルに縛られるようなDJではない。

「僕の音楽スタイルはエクレクティックで、一つのかたちで表現するのは不可能だし、僕にとってエキサイティングなのは違ったスタイルの音楽を配列していくこと。ハード・テクノの後にミニマル・テクノって感じにね。休み休み違う音をプレイしていくのが一番面白いと思うんだ」

「クオリティーの高い様々な音楽スタイルを受け入れていくことによって、僕たちの音楽への理解力はさらに高められていくんだ」

先月発売された DJ magazine とのインタビューの中でも、多くの人がミニマル音楽を 「退屈で単調」 に感じるという事実を快く認め、彼自身もそれに賛成だと語った。

「多くの人に受け入れられる音楽ではないのさ。確かに旬な音かもしれないけど、全く新しい音楽というわけではないよね。僕は、真剣にプレイをしているDJだから、オーディエンスにも僕の情熱を感じて欲しいんだ。エレクトロは結局、テクノのサブ・ジャンルなのさ。名前から想像するほどオシャレでもないと思うけどね。単にドイツのアーティストの音が、ここに来て有名になっただけのことだよ」

ミニマルの話はともかく、今回のインタビューは、Fabric の6周年について、そしてその Fabric と彼の驚くほど近しい関係について伺うものだった。

「一度も Fabric を離れようと思ったことはないんだ。Fabricの成長過程には、僕自身も気持ちの部分でものすごい思い入れがあるからね。僕たちがここまで成し遂げて来れたことをすごく誇りに思っているし、今後についてもすごくエキサイトしてるんだ」

「この6年間、ほとんど毎週 Fabric でプレイしてきたから、僕の仕事のモラルは、平日に音楽を探して、週末にそれをプレイしてオーディエンスとシェアするという、すごくベーシックなものでね。レジデント・イベントを持つことと、クラブのレジデントDJになることの大きな違いは、自分がいつプレイするか、誰とプレイするかを決める決定権があるかないかでね。Fabric の3つのフロアにわたって設備は申し分ないから、毎週がすごく楽しみなんだ。だから現状にはすごく満足してるよ」

3年前のインタビューで、当時36歳だった Craig は、40歳になった時点でDJをリタイアし、彼の以前からのキャリアであるファイン・アートに集中すると語っていたものだが、現在40歳になった彼は、当時とは考えを変えたと話した。

「当時は、海外でツアーをすることが多くて、もちろん楽しかったけど、創造性のバランスが欠けてしまっていた。今は前以上に仕事を楽しんでいるし、DJとプロデューサー業、ヴィジュアル・アートを上手くバランスをとりながらこなす方法をみつけたんだ」

「人生は40から。僕はやっと音楽業界の中心で活動するアーティストになれたんだ。将来的にはまたアートをやることになると思うしね。少し大げさな言い方かもしれないけど、成熟することで、創造性のバランスをとることが自分の行動力につながるということを学んだのさ。ただアートだけをやりたくはないし、DJだけをやりたくもない。二つの創造性がお互いに影響しあうのが素晴らしいと思うんだ」

以下は対談形式でのインタビューの模様をお伝えする
(Translation by Kei Tajima)

Skrufff (Jonty Skrufff) : Fabric がオープンして6年が経ちました。クラブ・シーンの音楽的トレンドを形成する部分において、Fabric はどれほど重要であったと思われますか?また、クラブ・シーンにおいて、どのような役割を果たして来たと思われますか?

Craig Richards : アンダーグラウンド音楽をこれほどのスケールでプッシュしたクラブは、世界中でも Fabric 以外に考えられないよ。この6年間で、多くの才能あるアーティストが Fabric から生まれてきたんだ。そういった場を築けたことはもちろん、僕らがこれからも掲げていく「新しく面白いアーティストを、十分なケアと配慮を持って宣伝していく」というテーマを誇りに思っているよ。僕たちにとって、ブッキングの面で重要なのは、プロフィールではなく、才能と可能性。このおかげで、自由なブッキング・スタイルを持つことが出来たんだ。周りのクラブとは対照的だったことも成功した理由だと思う。僕たちの一番大きな目標は、当時あったクラブの代わりになるような、力強いものを供給するということ。そうやって僕たちは場所と音楽をクリエイトした。その他はすべてオーディエンスによってつくられていったんだ。

Skrufff : ミニマル音楽の発達にはどのくらい貢献した思いますか?

Craig Richards : ミニマル音楽を広める役割を果たしてきたのは間違いないだろうね。僕たちがブッキングをするまで、多くのミニマル・アーティストはイギリスでプレイする機会を与えられなかったんだ。当時のイギリスのトレンドは、イギリス人スーパー・スターDJだったからね。僕たちの最初の目的は、まだ知られていないアーティストを徐々に紹介していくというものだったんだ。レジデンシーのおかげで、一緒にプレイするDJを自分で選ぶことが出来てすごくラッキーだったよ。当時から僕は、シンプルでディープでヘヴィーな音楽なら、サンフランシスコや南・東ロンドン、ケルンのものでも何でもプレイしてたね。繰り返すボンゴ・ループや、クリック音…大事なのはトラックの持つ雰囲気。忍耐強く続けることによって、こういった音は Fabric の音になったんだ。一部の人にはシンプル過ぎる音かもしれないね。でも僕にとって、夜中にはこういった空虚感のある音がしっくりくるんだ。空っぽなものが大好きでね。家具のない部屋にペインティングのない壁、それにノーメイクの女の子。そこで大事なのはサウンド・システムさ。シンプルな音楽が映えるためにはいいサウンド・システムが必要。それ無しで大きなインパクトを与えるのは難しいよ。

Craig Richards Interview

Skrufff : ここ数年で多くのDJやクラブ (特に DC10 など) がミニマル・ブームに乗り、音楽の方向性を変えましたが、これはシーンにとっていい側面と悪い側面のあることだと思います。これによってシーンは今後どのように影響されていくと思われますか?

Craig Richards : ほとんどの流行の音楽は次第に廃れてしまうものなんだ。だから、シーンに昔から存在している音楽が注目されるようになったと考える方が好ましいかな。シーンはこういった流行に乗って成長するんだ。"エレクトロ・ハウス" や、"ミニマル・テクノ" は、商業的な考えの業界人によって使われているマーケティング用語なのさ。こういった言葉は酷使されて次第に使われなくなるけど、問題はミニマル音楽についてなんだ。人によってミニマル音楽への解釈は違ってくる。僕のトリックは、シンプルなものを複雑に聴かせるところにあるんだ。DJの仕事とは、クラウドを惹きつけて、楽しませることの出来る音を聴かせるもの。シンプルな音楽をプレイすることは、DJにとって大きなチャレンジでもあるんだ。僕は個人的にこのチャレンジを楽しんでる。素晴らしい音楽が流行ることに関しては、何の問題もないよ。第一、クソみたいな音楽が流行るよりマシじゃないか。

Skrufff : 最近 Richie Hawtin が「テクノロジーの発達によって、"平凡な" ビート・ミクシングにおさらば出来た」と話していましたが、このように多くのビッグ・ネームDJがアナログから Ableton などのソフトウェアにプレイ・スタイルを転向させていることについてどのような意見をお持ちですか?

Craig Richards : 僕はビートを合わせていく作業を平凡だとは思わないね。むしろ人間的な要素のあるDJプレイの方がもっとエキサイティングだと思うんだ。だけど、テクノロジーを酷使して、既存の音楽とは違った新しい音楽をつくっているDJには、ビートを合わせるのに時間をムダ使いするよりも、トラックを選んで操作するのに多く時間を使うほうがいいのは分かるけどね。ただ、アナログの音と感覚にロマンチックなほど思い入れのある僕には向かないんだ。ニュー・テクノロジーについてはまだ腑に落ちない部分があるし、確かに便利だけど、プログラムの発達と音のクオリティーの部分で不足している気がするしね。テクノロジーを使うのが、アナログをプレイするよりモダンな方法だと言われると、すごくイラついてしまうんだ。単にDJする一つの方法であるというだけなのにね。

End of the interview

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