HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

The Chemical Brothers Interview

今年1月に通算5枚目となるニュー・アルバム"Push The Button"をリリースし、ダンス・ミュージック界に新たなる伝説を刻み込んだ Tom RowlandsとEd Simonsの二人による、UKが世界に誇るモンスター・ユニット The Chemical Brothers。 2月には待望の日本公演も行い、4日間にわたって日本のクラウドをロックした二人だが、ツアー直前となる忙しい合間をぬって、Ed Simonsが本国イギリスにおいて、HigherFrequencyのパートナーであるイギリス人ジャーナリスト Jonty Skrufffのインタビューに応じ、Skrufffの好意によってHigherFrequencyにもそのインタビューを掲載する運びとなった。

普段からSkrufffがwww.skrufff.comにおいて配信しているニュースを愛読しているという Ed。そのおかげかインタビューは終始リラックスした様子で行われ、ニュー・アルバム"Push The Button"、参加ヴォーカリスト、果ては日本のクラウドについてまでたっぷりと語ってくれた充実の内容となった。アルバム・リリースからは少々時期がずれてしまったが、是非一読してみて欲しい。

> Interview : Jonty Skrufff (Skrufff.com)/ Translation & Introduction : Kei Tajima (HigherFrequency) / Photo : TEPPEI

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Skrufff (Jonty Skrufff) : 先日リリースされた5枚目のアルバム、 "Push The Button"ですが、今回は何がきっかけとなって制作活動をスタートさせたのですか?

Ed (Ed Simons): ツアーから帰ってきて、急に色んなアイデアが湧いてきたんだ。実際、そういったアイデアを組み合わせていくことを難しいと思ったことは一度もなくて、難しいのはそれらをまとめた上で、うまく表現する方法を探し出すこと。使いたい音の断片を見つけたり、大体の骨組みを考えたりすることは簡単に出来るんだけど、アイデアを正しい方法で表現しようとすることや、ヴォーカリストを見つけたり、ヴォーカルのサンプルを探したりするのはやっぱり難しいんだ。今回はそういう作業に全部で2年もかかったね。今回のアルバムに入っている殆どのトラックは、Tomがギターを弾きながら、出てきたメロディーや使えそうなアイデアを最終的にかたちにしていったものなんだ。

でも、曲のつくり方は他にもいろいろあるし、Chemical Brothers固有の制作の始め方があるわけでもない。しいて言えば、このアルバムと今までのアルバムとの決定的な違いは、レコーディング・スタジオを変えたことかな。最近ロンドン郊外にスタジオを移動したから、以前よりもっと集中できるようになったというわけ。8年以上もロンドンのElephant and Castleのスタジオで音作りをしてきたけど、今はSussexにあるTomの新しいスタジオで仕事してるんだ。だから作品的にも、すごくリフレッシュした感じだよ。

5枚目のアルバムって、リリースするのにある意味ちょっと決心が必要だと思うんだけど、僕たちは迷ってなんていなかった。すごく意識的に5枚目のアルバムをつくろうとしていたんだ。

The Chemical Brothers Interview

Skrufff : The Big Issueによると、あなたは "Galvanise" を最も過激なトラックとして挙げていたそうですが。

Ed : アルバム自体が過激だと思っているよ。タフで、引き締まっていて、ハードな音の要素が美しいメロディーと共に散りばめられている…こんな作品は今までにつくったことがないよ。だから、決して "Galvanise" だけってわけではないんだ…ただ "Galvanise" はかなりタフなレコードだとは思う。でもかなりおかしいトラックでもあるんだよ。というのも、スタジオの棚にホコリをかぶってるCDがあったんだけど、たまたまそれを聴いてみたらスゴかったんだ。モロッコの楽器のストリングスのサンプルだったんだけど、すごく気に入って、すぐにそれを使ったトラックのアイデアが浮かんだのさ。そのサンプルにドラムのビートを加えて、Q Tipのヴォーカルが入るって感じで、"Galvanise" は出来上がったんだ。全体の作業には時間がかかったけど、あのサンプルから曲のインスピレーションを得たのは一瞬の出来事だったよ。あの時、ホコリをかぶってたワールド・ミュージックのCDをたまたま見つけたなんて、ラッキーだったと思うね。

Skrufff :初めからQ Tipに絞ってヴォーカリストを選ばれたのですか?

Ed : 特にそういうわけじゃなかったな。ただ、あの曲には強いヒップ・ホップのヴォーカルが必要だったんだ。だから友達で、ヒップ・ホップ・シーンに強いコネクションを持ってる奴を一人ニューヨークに送ったのさ。それでQ Tipが僕たちの音を耳にすることになったというわけ。それまで僕たちのことや、The Chemical Brothersの音楽を彼自身がどのくらい知ってたのかは分からないけど、純粋にその場で聴いた音楽をすごく気に入ってヤル気になってくれたんだ。

彼はかなりオープン・マインドな人だと思うよ。作品も妙なエレクトロニカからジャズっぽい音まで本当に幅広いしね。REMとだってコラボレーションしたことがあるし、伝説みたいな人だよ。僕らにとってはヒーローだし、何より、素晴らしい仕事をしてくれる人なんだ。

Skrufff : 今回のアルバムには、Block PartyのKellyも参加していますね。これがきっかけで現在彼は一躍有名人となったわけですが…

Ed : 僕はRough Tradeのショップのすぐ近くに住んでいて、結構頻繁にレコードを見に行ってるんだけど、ある日、店にいたらちょうど彼らのEPが流れていたんだ。気になって、「これ誰?」って店の人に聞いたら、バンドのCDRをくれて。すごくカッコいいバンドだと思ったよ。Kellyは以前ベルギーで僕たちのライブを観て、すごくインスパイアされたことがあるらしいんだ。だからそこに接点があったというわけ。

まぁ、すべては運だと思うよ。彼らのレコードがリリースする前にレコード・ショップがそれを流していて、偶然僕がそこに居合わせて、それを気に入ったんだからね。最近彼らのアルバムを聴いたんだけど、素晴らしかったよ。すごく良かった。Kellyと一緒に仕事をするのもすごく楽しかったし。このトラックにはあまり長い時間をかけることが出来なくて、Kellyもあんまり長い歌詞は書かなかったし、アルバムを仕上げなきゃいけないギリギリのところで完成したトラックだったんだ。でも、彼は素晴らしい仕事をしてくれたね。クールな奴だよ。

Skrufff : 過去にヘヴィ・メタルをよく聴いていた時期はありましたか?

Ed : へヴィ・メタルにハマっていたとは言えないかな。ちょっと変わったAC/DCのレコードなら聴いてたかもしれないけどね。ヘヴィーな音楽も好きだし、ギターも好きだけどヘヴィー・メタルはあんまり聴かなかったな。

Skrufff : 最近では、DJとライブのどちらに重点を置かれているのですか?

Ed : 僕たちにとって何よりも一番大切なのは音楽だよ。DJとかライブとか、そういうものは全てその後についてくるんだと思うんだ。驚いてしまうんだけど、僕たちはこんなにも長い間一緒に働いてきたのに、まだアルバムを5枚しかリリースしていないんだよ。それにB面の曲を何曲が加えても、Chemical Brothersとしての音楽は、全部で5時間にしかならないんだ。全然足りないよね。僕はただ音楽をつくるのが好きだし、根本にそれがあって音楽活動を始めたんだ。その前にDJとして活動をしてはいたけど、もし自分たちの楽曲自体がなかったら、それをDJやライブでプレイすることも出来ないしね。

もちろんライブは楽しいし、全力でやるのは当然だけど、ライブやDJをしたときの想い出は、時間が経つと共にどんどん薄らいでいってしまうんだ。それに対して、これから何年後も変わらずに残るのはその5時間の音源だよ。

Skrufff : 最近、Tim Deluxeと話をする機会があったのですが、彼によると、日本では今だにUnderworldを神のような存在として、リスペクトしている人が多くいるそうです。Chemical Brothersはどのような認知をされていると思いますか?

Ed : 日本では…僕たちも神のような存在さ(笑)。というのは冗談。神様とは程遠い存在だよ。ただ、プレイする度に日本のオーディエンスは決まって高い評価をしてくれる。日本人は分別があるけど、同時に狂気も持ち合わせていると思うよ。

そういう感じで、ライブの時はかなりクレイジーになるけど、一方で、僕たちの音楽活動のみに限らず、他のことに対する評価もきちんとしてくれるんだ。例えば、アルバム "Surrender" やいくつかシングル作品のアート・ワークをやってくれた Kate Gibbっていうアーティストがいるんだけど、最近彼女は、熱心な日本のファンがオーガナイズした作品の展覧会に出席するために日本に行ったんだよ。熱心な人が多いんだね。タイトルに込められた意味とか…音楽に関ることなら全部理解したいと思うのさ。

スペインも僕たちにとってかなり大切な場所だよ。"It Began In Africa"はスペインでナンバー1シングルになったしね。スペインのライブにはいろんな世代の人が来てくれるんだけど、以前、ビルバオって街の小さなタウン・ホールみたいな場所でプレイした時なんて、家族連れがいっぱいライブを観に来てくれてて。あれはイイ感じだったな。

The Chemical Brothers Interview

Skrufff : 有名になることによってあなたの生活は変化しましたか?

Ed : 今までに一度もセレブや有名人になりたいと思ったことはないんだ。それは君達が決めることだと思うし、ひょっとしたら誰も僕らをセレブだとは思っていないのかもしれない。有名になっても僕たちは前と全然変わってないし、Tomは相変わらずあんな辺鄙なところに住んでる。僕も昔からこの近くに住んでるしね。たまにコソコソ話をされたりはするし、もし僕がTomといて、レコード・ボックスを持っていれば、絶対に気付かれる……だけど、僕たちの知名度なんてそれくらいのものさ。セレブ・カルチャーについて語るのなんて面白くないし興味もない。でも、他人に対して意地悪く振舞うほど、セレブとして見なされるっていう傾向があると思うよ。あの意地悪さには、たまに気が狂ってるのかと思っちゃうね。

Skrufff : あれは、ほとんど妬みに近いような感じですよね。

Ed : 年末にTurnmillsでプレイしたんだけど、素晴らしかったね。やっぱりDJが好きなんだと思ったよ。DJブースなんてすごく小さくて、その中に友達が20人くらい詰め掛けて来るものだから、彼らをよけてレコードを選ぶのにも一苦労さ。でも、ああやってみんなと楽しい時間を過ごすってことこそが、すべてなんだと思ったね。非難される必要なんてないのさ。だって僕たちは何も悪いことしてるわけじゃないんだし。人々は僕らのセットを観に来て、僕たちはお金を払ってもらって3時間プレイする。フロア中の人々が夢中になって踊ってるのを見るのって、かなり気持ちいいよ。そういうすごくシンプルでダイレクトな事に対してあれこれ言われるのは、すごく苛立たしいね。

End of the interview

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