長年に渡りNYのクラブシーンで活躍し、NYのクラブ・カルチャーを生き抜いてきたDJ、Andre Collins。かつては、ブロンクスの"The Warehouse"にて多くのクラウド達から支持を受け、"The Warehouseの番人"との異名を取った事もある彼のジャパン・ツアーが約半年ぶりに今週末に開催される。2002年、2003年と来日を重ねるごとに、そのパフォーマンスの素晴らしさが口コミで広がり、昨年の6月に行われたツアーでは4都市公演を行うまでにその規模を拡大。ダンスフロアにおいてキッチリとファンを説得できる数少ないDJのひとりとしてその評価は高まるばかりだ。
彼の再来日を記念して、HigherFrequencyが設立直後に行ったAndreとのエクスクルーシブ・インタビューの模様を再びお伝えする。
> interview : eri nishikami (Restir Magazine) _ photo : jim champion _ translation : h.nakamura (HigherFrequency)
Higher-Frequency (HRFQ) : 札幌、福岡、大阪での公演は如何でしたか?
Andre Collins : 最初の日は福岡にあるO/Dだったんだけど、今回はすごくナーバスになってしまってね。だから最初の1時間くらいは何となくラフな感じでプレイしながら、フロアの雰囲気を探っていく感じになったんだ。2日目は札幌のプレシャス・ホール。このクラブでは以前もプレイした事があるんだけど、ここでも最初の1時間半くらいは何となく手探りの状態が続いた感じだったかな。でも、最後にはきっちり雰囲気を掴む事も出来たし、すごく良いイベントになったと思うよ。で、大阪ではGrand Cafeでプレイしたんだけど、これは本当に素晴らしかった。ビックリするくらいね!その日は火曜の夜だったんだけど、まるで土曜の夜にプレイしているみたいで、本当に本当に素晴らしかったんだ。単にお客がたくさん入っていたって言うことだけじゃなくて、みんな一人ひとりがつながりあっている感じでね。僕もみんなとつながっていたし、彼らも僕とつながりあっていたんだ!
HRFQ : 今回で来日は3回目ですよね。日本のクラブシーンについてはどのような印象をお持ちですか?
Andre : 正直言って、ニューヨークもこのくらい盛り上がっていたらなぁって思うんだ。日本のシーンはスゴいと思うし、たくさんの人がディープ・ハウスのサウンドに夢中になっているからね。
HRFQ : NYの人があまりクラブにはまっていない理由は何だと思いますか?
Andre : それには幾つかの理由が組み合わさっているところがあるだろうね。まずゲイのコミュニティに関して言うと、シーンは完全にヒップホップやR&Bに飲み込まれてしまっていて、黒人のゲイ・コミュニティーの殆どはこの二つのジャンルに支配されていると言ってもよいと思う。あと、かつてはクラブシーンの中心的存在だった人もどんどん年をとってしまって、何人かは他の道へと進んでしまった事も理由として挙げられるだろう。みんな家族や子供もいるし、前みたいに遊びに出かけなくなってしまったからね。だから、今こそ新しい世代を育てていかなければならない時期だと思うし、その為にはクラブってものが必要になってくるわけなんだけど、その肝心なクラブ自体が教育とかそういったものとは違った方向、すなわちお金儲けをする事へシフトしているのが、悲しいかな今の現実なんだよね。で、お金を儲けるためには、流行の音楽を流していれば良いわけで、それが今はヒップホップとかR&Bって事なんじゃないかな。
HRFQ : ハウスなどのクラブミュージックのジャンルが、なかなかHip HopやR&Bを超えられない理由って何だと思いますか?
Andre : それは、決定権を持っている人たちに関わるところが大きいと思うよ。オフィスに座って、ラジオでかかる音楽のディレクションを決めたり、MTVで何を放映するかって事を決めたりする人のね。彼らが普段やっているのはマーケティングと言うもので、マスコミが彼らから与えられる情報は、その戦略に左右されている面があると思うんだ。もし、マスコミがある特定のスタイルやお洒落の方法、ある特定の振舞い方や行動様式のみを情報として伝えていけば、キッズ達にしてみればそれは「そうするべきだ」って言われているも同然で、自ずと伝えられたものに対してだけに関心を持ってしまうものでしょ。もし、たくさんの情報を与えてあげれば、キッズ達もそれなりに選択肢を持つことが出来るんだろうけど、でもそういった決定権を持った人たちって言うのは、あまり彼らに選択肢を与えたいとは思っていないからね。あくまで、キッズ達を自分達の思い通りに動かしたいと思っているはすだし、それが今の状況だと僕は思うね。まぁ、この状況を変えれるかどうかは、僕ら自身にかかっているんだろうけど、実際にどうやってやればいいのかさえも分からないし、その為に何をすれば良いのか、僕自身、DJであるということ以外に何をすべきなのかも良く分からないんだ。だって、僕らの音楽はMTVでは流してもらえないわけでしょ。アメリカではハウスのビデオって言うのもあまり見たことがないし。そもそも、マーケットが無いんだよね。だから、あの最悪なクリスティーナ・アギレラやブリトニー・スピアーズのリミックスみたいなもの以外で僕らがマーケットを持てるようになるまでは、僕らは本当にちっぽけな存在でいるしかないんじゃないかな。
HRFQ :日本のオーディエンスを前にプレイする時と、NYのオーディエンスを前にする時では何か違いはありますか?
Andre : う〜ん、特に違いはないかな。どこでプレイする時でも、お客の雰囲気を探っていかなければならないからね。時にはちょっとお客がえり好みをする事もあるし・・・。それに、一旦うまく波に乗ってしまうと、なかなか色んな事を試したり、新しい曲ばかりをプレイしたりする訳にもいかなくなってくるからね。これはNYでも一緒だよ。でも、日本のエネルギーの方が全然高いと感じる事も時々あるかな。この間のGrand Cafeはそうだったしね。あの日は本当に素晴らしかったよ。途中で泣いてしまったくらいだったからね。あれはちょっと特別だったと思う。
HRFQ : 毎回来日するたびに、日本のオーディエンスの間であなたについての認知度が上がっている事に気付かれましたか?
Andre : それは一重に、僕をブッキングしてくれているRyoのお陰だね。彼から「火曜日にこんなに大勢の人たちが集まってくれたことを誇りに思うべきだよ。みんな普通は火曜日に出かけたりしないんだからね」って言われたんだけど、僕は逆に「僕のことを知らないのに、なんでみんな集まったんだい?」って聞いたんだ。そうするとRyoは、「みんな耳が早いからね。君の噂を聞きつけたからだよ」って言ってくれて・・・。だから、これは彼のお陰だと思うよ。僕についての色々な情報を流してくれたわけだし、毎回来る毎に1箇所ずつ会場も増えていっているからね。みんなが僕のことを知ってくれるようになって、こうして集まってきてくれるって事は本当に嬉しい事だよ。
HRFQ : DJをしている時には、どんなメッセージを込められますか?
Andre : いやぁ、難しいことを聞いてきたね(笑)!う〜ん、そうだなぁ・・・特に一つのことだけを伝えたいとは思っていないかな。たとえ英語が話せない人がいたとしても、少なくともその曲が何について歌っているのかを理解する事は出来ると思うし、エネルギーを感じる事は出来るでしょ。音楽は最も普遍的なものだからね。だから僕は、「愛」というものは自然に溢れ出すもので、それが目に見えない形で空中を伝わってみんなに触れ、みんなも愛を感じて、それを僕に返してくるものだと信じているんだ。あと言えるのは、生を受けている事、いろんな経験が出来る事を感謝するってことかな。もし僕らが生きていなければ、今の生活も、クラブに行く事も、音楽を聞く事も経験できなかったわけだからね。だから神でも仏陀でも、自分の信仰しているものに対しての尊敬の念を忘れずに、人生における今の瞬間を楽しむことだが大切だと思うんだ。僕らが分かっている事と言えば、今の瞬間があるって事だけだし、一寸先はホント分からないからね。
HRFQ: The GalleryでNicky Sianoのプレイを聴いて、プロのDJになろうと決意されたと言われていますが、彼からはどのような影響を受けたのですか?
Andre : Nickyに会うまでは、誰かがレコードでストーリーを作るなんて事は耳にした経験がなかったんだ。その前からクラブには遊びに行っていたんだけど、Nickyがプレイしているのを始めて聴いた時には、まるで彼が僕に話しかけているような感覚に陥って、しかも僕個人の体験を語ってくれているような気がしたのを覚えているんだ。もちろん、それは僕の体験そのものではなかったんだけど、あたかもそうであるかの様な感じがしてね。そこで語られている事に自分自身を置き換えて行くような感じだったんだ。DJになりたいと思ったのはこの経験をした時だったかな。何故なら、僕自身も、本当にたくさんの事を自分の内面に抱えていたからね。僕は当時16歳で、自分がゲイだってことに気付いていた。その前から何となく分かってはいたんだけど、その頃は事実としてそうなっていった時期でもあったんだ。で、自分がゲイである事を告白しようとしていたんだけど、自分の中に葛藤もあったし、痛みもあれば怒りもあった。だから、それらの感情を音楽を通じて表現できれば、と思ったんだ。何とかレコードをつなぎ合わせることで、自分自身の中にあるものを音楽的に開放してやりたいと言う気持ちでね。まぁ、これが僕がNickyのプレイをはじめて聴いた時の経験談かな。僕も同じ事をやってみたいな、と思ったんだ。
HRFQ : The LoftとThe Galleryの違いはどんな所にあったのですか?
Andre : まず、The Loftが最初に出来て、その後にThe Galleryが出来たんだ。どちらもプライベートなクラブで、入るのにはメンバーシップが必要だったね。中に入ろうと思ったら、誰かと知り合いじゃなきゃいけなかったし、中での立ち振る舞いについても充分理解をしていないとダメだったんだ。下品な振る舞いはもっての他って感じで、そんな事をしたら、すぐに「出ていけ」って言われたものだよ。あと、どちらも幅広い層に人気があったクラブだったわけではなくて、主に黒人のゲイの間で人気があったクラブだったね。その当時は、黒人のゲイ達には遊びに出かけてパーティーが出来るような場所はなかったし、それでDavidが自分の家を友達に開放して、The Loftが誕生する事になったというわけさ。
HRFQ : かつてはThe Warehouseでレジデントを務めていらっしゃったと思いますが、どうやってレジデントの座を獲得したのでしょうか?
Andre : The Warehouseは2番目の家みたいな存在で、あそこではホント長い間プレイをしたね。確か4年だっけ?他にDavid DepinoやFred Pierce、Danny Krivit、Ken Terryなんかが競争相手としていたんだけど、マジでその座が欲しかったから懸命に戦って・・・で、勝った!って感じだったかな(笑)。
HRFQ : それは簡単なことでしたか?
Andre : いや、そんなに簡単なことじゃなかったね。実は色んな出来事があって、本当はあまり踏み込みたくはなかったんだけど、結果的にレジデントの座を僕が手にする事になったんだ。他のDJたちは、そこで起こっていた政治的なことにあまり首をつっこみたくなかったみたいだったけど、僕は望んでそうしたって感じだったね。
HRFQ : オーディエンスのアティテュードという点に関してですが、この20年間で大きく変わってきたと感じられますか?
Andre : 20年?僕がDJを始めてから今年で30年なんだ。16の時に始めて、今年46歳になるからね。でも、お願いだから30年間の事は聞かないでよ!(笑)当時を振り返ると、色んな事がまだ荒削りのままだった感じがするね。全てが新しくて新鮮で、エキサイティングな空気が漂っていて・・・。まぁ、何か新しい事が始まる時にはいつもこういった興奮はついてくるものだからね。でも、最近ではそういった新鮮さとか新しさはなくなってしまったかもしれない。昔は、いつもワクワクしながら心待ちにする特別な何かがあったし、The Galleyに足を踏み入れる時はいつも、その日にどんな経験が待ち受けているのか全く予想不可能だった。今日どんな音楽が聴けて、どんなセットアップが施されているのかも分からなかったしね。風船での飾りつけなんかもよくやっていたし、毎週違ったデコレーションが施されて、時にはフルーツが出てきたり、ある日はケーキだったり。とにかく、ちょっとしたバリエーションを僕らにいつも提供してくれていたよ。でも、今ではクラブに足を踏み入れる時には、誰がそこにいて、どんな感じになるのか大体予想がついてしまうでしょ。クラブ自体が何かのイニシアティブを持って、エキサイティングな事をやろうって気持ちもないと思うし。ただ単に座ってパーティーが始まるのを待って、成り行きに任せているって感じになってしまったと思うんだ。
HRFQ : 最近のDJ活動に関して教えていただけますか?
Andre : 今は、いくつかのゲスト枠でプレイしているだけなんだ。シーンはどんどん小さくなっているからね。でも、来月からはNYのOctagonという場所で、隔週土曜日ごとにプレイする事になりそうなんだ。
HRFQ : 家にいる時はどんな音楽を聴いているのですか? ハウスは聴いていますか?
Andre : ハウスも聴くけど、ジャズも聴くかな。 Al Jarreau、Carmen McRae、Quincy Jonesなんかも好きだし、基本的には何でも聴く感じだよ。あとリラックスする時には、Pat Martinoを聴くね。彼は僕の好きなジャズ・アーティストなんだ。
HRFQ : 最後に、日本のファンに何かメッセージはありますか?
Andre : まず、僕をサポートしてくれて、そして僕の好きな音楽を楽しんでくれて有難う、と言いたい。それから、みんなのエネルギーにも感謝をしているし、パーティーが終わった後に何度も「もう1曲!もう1曲」って叫んでくれたことにも感謝している。みんなの事を愛しているし、僕は愛というものを本当にレスペクトしている。本当に感謝しているよ。
End of the interview
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