Alex Gopher は、’90年代半ばにフレンチ・フィルター・ハウスの草分け的存在として、シーンで名を知られるようになるも、最近では、アンダーグラウンドなクラブ・シーンを拠点とする最先端のエレクトロ・プロデューサーとして自分自身を再構築し、真のダンス界のスターとして活躍しているアーティストだ。フレンチ・バンドの
Air や、親友で同じくフランスの有名人 Etiennne de Crecy といったオールドスクールな仲間達と共に、Etiennne de
Crecy のユニークなコンピレーション・プロジェクト Super Discount に2曲楽曲を提供したり、また最近では ’05年にクラブで大ヒットしたレコード
“Super Discount’s Fast Track”でコラボレーションをしている。
現在、彼は(主に)ノン・ダンス・アルバムの制作に取り組んでいるが、同時にダンス・フロアーのために粒よりのエレクトロ・トラックをつくり続けることも怠っていない。Kitsune
からは ‘Washing Up’ 的アンセム ’Motorcycle’ を、それに先駆けて、印象的で個性溢れる3曲が収録された “Spam
EP” をリリースする。
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以下は対談形式でのインタビューの模様をお伝えする
(Translation by Kyoko Maezono)
Skrufff (Jonty Skrufff) : まず ”Spam EP” について聞きたいと思います。この作品は、どんなアイディアから生まれたんですか?
Alex Gopher : この EP とは全く違うスタイルのアルバムの制作に長い期間取り組んでいてね。アルバムには、歌中心のアコースティック楽器とギターがたくさん入っているんだ。それに、Super Discount で Etienne de Crecy とツアーに出ている間は必然的に毎週末クラブにいたから、エレクトロ・ミュージックをつくれない環境にストレスが溜まりまくっていた。だから、新しいエレクトロ・ミュージックをつくってパッと気晴らしがしたかったのさ。Super Discount で PIAS とは一緒に仕事したことのある仲だったから、話の流れで彼らのダンス系レーベル Different から EP を出そうってことになってね。Alex Gopher 名義で1曲やらないかって言われて、勿論すぐに OK したよ。それで何曲かつくって、PIAS の人間がその中から気に入ったのを選んだのさ。楽曲のアイデア自体はすごくシンプルで、自分の DJ セットでプレイ出来そうなものをつくったんだ。
Skrufff : あなたは DJ であり、またアーティストとして楽曲も作ります。あなたにとってはどちらの方が最優先で、より熱意を傾けられるものですか?
Alex Gopher : その質問に答えることは不可能だね。自分のアルバムをつくることだけが楽しいと感じたら、エレクトロニック・ミュージックの世界には二度と戻って来れない。でも同時に、クラブ・ミュージックをつくる必要性も感じるんだ。歌中心のアルバムをつくろうって決めた時も同じで、エレクトロニック・ミュージックだけを聴くのに嫌気がさしてしまってね。つまり、色んな面で自分の才能を発揮したいんだ。でも、もし選ばないといけないなら歌をつくる方を選ぶだろうね。歌の中にはエレクトロニック・ミュージックを取り入れることが出来るからね。でも、クラブでプレイするいいエネルギーを抽出できるインストの曲もつくるのが好きなんだ。
Skrufff : あなたは、‘90年代のフレンチハウス・シーンがいきなりブレイクした時期に 深く関わっていました。最近では、才能のあるプロデューサーたちがフランスから数多く出てきていますが、今のシーンに新しい時代の幕開けのような、昔と似た感覚はありますか?
Alex Gopher : 昔と今で大きく違うのは、‘90年代のフランスでシーンにとって重要だったのはプロデューサーに関してだけで、当時のパリのナイトライフは悲惨だったということ。あの頃は音楽をつくっている人達が、実際にクラブに出かけているわけじゃなかったからね。今は違う。プロデューサーもクラブに行くし、パーティーをオーガナイズするプロモーターとの距離も近くなった。プロデューサーのシーンがクラブ・シーンともっと直結する様になったんだ。それが一番大きな違いだよね。フランスから生まれる商業的な音楽が減ったのは、それが理由かもしれない。ラジオ向けの音楽よりもクラブ向けの音楽の割合が増えたんだ。’90年代終盤のフランスの音楽は変化の最中にあって、プロデューサーがクラブとクラバーたちとの繋がりの必要性に気がついた時、またいい音楽が生まれるようになったというわけさ。
Skrufff : あなたはフランスでも他の土地と同様の認識のされ方をしていますか?
Alex Gopher : それが結構違うんだ。僕が初めて成功した頃は、ラジオで僕の音楽がじゃんじゃん流れて、テレビにも出ていたから、オーディエンスがもっとメイン・ストリームだった。でも彼らの記憶から僕は消えているよ。随分と前の話だからね。クラブ・シーンに戻ってみたら、今は若い子たちが僕をオールド・スクールのフレンチハウス・プロデューサーとして認識している。だから過去の栄光の中だけじゃ生きていないっていうのを頑張って証明しているのさ(笑)。イギリスとドイツの方が僕らに対する信仰は厚いよね。フランスじゃ、未だに古株のプロデューサーとしか思われていないんだ。
Skrufff : 今でもハウス・ミュージックが好きで、プレイしたりしますか?
Alex Gopher : エレクトロが多いね。最近は、ハウスよりもエレクトロの方が面白い作品がたくさんある。
Skrufff : あなたが所有している初期のハウス・ミュージックのレコードには、まだ命が宿っていると思いますか?あなたがダンス・ミュージックを使い捨てのものとして考えているかに興味があるんです。
Alex Gopher : この間、すごく久しぶりに自分のファースト・アルバムを聴いたんだけど、すごく誇りに思ったよ。たぶん、クラブ用の EP はその時の、その瞬間のためだけの音楽だと思う。クラブのトレンドやサウンドは毎月変わるからね。たまに本物のクラブ・ヒットができた時は、その曲はずっと生き残って名盤になる。でも毎回そうはいかないんだ。クラブ用の曲ばっかり聴いていると、1〜2年後にその当時のサウンドに気がついて、やっぱり古いなって感じてしまうことがあるよね。
Skrufff :フレンチ・バンドの Air とは今でも友達ですか?
Alex Gopher : もちろん。Jean Benoit のソロ・アルバムをマスターしたばかりだよ。僕はマスタリング・エンジニアだったことがあって、今でもたまにやるんだ。Air ともすごく仲がいいよ。
Skrufff : フランスのエレクトロニック・プロデューサはみんな友達同士で、1つの大きなハッピー・ファミリーのような感じなのでしょうか?
Alex Gopher : そうでもないよ。どちらかと言えば、たくさんの小さいファミリーで、従兄弟同士がそれぞれを繋いでいるって感じかな。僕のファミリーは同じレーベル Solid を共有していて、スタジオも隣同士の Etienne de Crecy と、学校時代からの古い友達の Air だね。彼らは僕に一番近い家族で、あとは Motorbass に Cassius、Kitsune レーベルの人たちとも仲がいい。夏の終わりに Kitsune から EP を出すから、またファミリーの新しい絆が生まれるね。
Skrufff : どうしてこの EP を Spam というタイトルにしたんですか?Monty Python のようなネットから引用したんですか?
Alex Gopher : ネットから拝借したよ。Etienne と ’Big Is Better’ っていう曲について話していた時に、彼が spam の e-mail みたいなタイトルだなって言ったのがきっかけ。
Skrufff : 以前、Paul Oakenfold がパフォーマンス中にステージが落ちたことがあると言っていました。パフォーマンス中に似たようなハプニングに直面したことはありますか?
Alex Gopher : ファースト・アルバムの DJ ツアーで LA にいた時だったな。LA のクラブで友達と DJ をしていて、30分も経過したころだったかな、2人の女の子が DJ ブースの中に入ってきて俺達の服を脱がし始めて、お行儀の悪いことをしようとしたんだ。でも、おかしなことに、彼女たちには2人のカメラマンが付き添っていたんだ。超可愛い女の子達だったから、「ノー」って言うのはすごく難しかったよ。でも、何か起こったらインターネットですぐに広まるからヤバいって思ったんだ。すごいアメリカ人っぽいやり方だよな。だから女の子たちに「ごめん。僕と友達はゲイだから」って言ったのさ。そしたら出て行ったよ。
Skrufff : ツアーで移動中に問題があったことは?
Alex Gopher : もちろん、時々荷物が出てこないことがあるよ。最近、荷物が届かないからダブリンでやる予定だった Super Discount のギグをキャンセルしたばかり。代わりに Etienne が DJ セットをやって、それはそれで良かったけど、やっぱライヴショーにはかなわないよね。
End of the interview
Alex GopherのSpam EPはPIAS Recordingsから発売中
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