テキスト:石原 孝
ちょっと前の話になるが、今年の5月久々にKISSが来日し、好評を博したというニュースが入ってきた。そういえば、ミュージック・ショップ(レコード店と言えないのが残念)では、新・旧の作品を含めてやたら関連のCD、DVDが目に付いたが、約30年前のあのKISSが今も注目されていると言う事実がうれしかった。当時、KISSが所属していたCasablancaというレーベルを当時私が所属していたビクターがディストリビューションしており、また、担当していたY氏が私の同期だったということもあって、公私ともに彼らを応援していたのだが、そのY氏のアーティスト・プロモーションのやり方が、従来の洋楽的手法ではなくやたら歌謡曲的で、一般紙から女性誌、はたまた歌謡アイドル誌まで露出するという、当時からすれば極めて大胆だったことを覚えている。勿論、音楽専門誌はミュージック・ライフ誌などを中心に、徹底的にKISSのビジュアル面でのインパクトをフルに利用し、表紙狙いのプロモーションを展開してはいたが、音楽のコアファン的な発想を持つ私とは違って、そのY氏のやり方は音楽にそれほどまでに拘らずに単なるミーハー的センスで良いと感じたものはストレートにプロモーション・アタックをかけるという大胆なやり方であり、そのやり方がとにかく私には新鮮に映ったものだった。それは、洋楽担当ミュージック・マンには音楽好きが邦楽担当者に比べて圧倒的に多く、それが時には悪く作用して「木を見て森を見ず」という諺のごとく、専門コア誌には濃いプロモーションをするが、媒体の幅広い一般展開が上手に出来ないという現実があったからだ。まず驚かされたのが、邦題のタイトルの付け方だ…「地獄の軍団」!なんとも恥ずかしい日本題だが、KISSの風貌を表現するには何と的を得た言葉だろうか!余談だが、後年になって私自身も担当したスコーピオンズの「蠍団」という恥も衒いもない大胆なネーミングを付けたシリーズをスタートさせたのは、このことに影響を受けてのことである。
同じCasablancaレーベルのDonna Summer (ドナ・サマー)も、Y氏のミーハー的プロモーションによって短期間で日本でも人気者になった。アーティスト、音楽を真正面から捉え、万人に分かりやすいプロモーションをする…これがY氏が掲げる洋楽アーティスト・プロモーションの原点であった。いまだに某FMステーションでは、化粧系バンドはオンエアーしないとか、アイドルはオンエアーしないとか、需要者側の意見を無視して供給者側の一方的な音楽理論をリスナーに押し付けている話をよく耳にするが、私としては全く理解が出来ない。アイドルとそうじゃないアーティストの区別はどこで誰がしているのか!音楽ジャンルによって格付けがあるのか?どうもここら辺の古い考え方を持ったミュージック・マンが音楽産業の広がりを阻害しているのではないだろうか?いつも私がアイドル系アーティストの悪口を言う人に反論するとき必ず言葉にするのが、あのロックのスーパー・スターと今では言われているビートルズだって当時はアイドルだったということだ。時代を創ったKISS、モンキーズ、BCR、ローリング・ストーンズたちもデビューはみんなアイドルだった。しかも、注目すべき事実は、こういったスーパー・アイドルが活躍している時は、音盤のみならず、掲載をした音楽誌、関連グッズのバカ売れなどなど良いことづくめの現象が起きるのである。音楽産業の昨今の低迷を嘆く前に、21世紀のスーパーアイドルを創り上げることを考えてみませんか?アイドルこそが不況にあえぐ音楽産業の救世主かもしれないのだから。
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石原 孝プロフィール
1948年生まれ。1970年日本ビクターに入社。RCAレコードのDisco/Soul部門の担当A&Rとして、K.C.&The Sunshine Bandをミリオンに導く傍ら、DJならば誰もが一度は通った事のあるはずの名門、Gil Scott Heron、Gato Barbieri、Lonnie Liston Smith等を擁した Flying Dutchmanレーベルも担当。その後80年代にはアルファ・ムーン設立に参加し、現在はWarner Music Japanにおいて取締役として、そして、山下達郎・竹内まりやの所属するMOONレーベルのA&Rとして最前線で活躍中。レコードコレクターとしても我々の射程圏外はるか彼方に居る存在で、所有枚数は本人いわく「約10万枚」。まさに音楽の虫ともいえ、現在のレコード業界では異端児といえる存在である。