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Matthew Herbert

INTERVIEW

Matthew Herbert

  • Text & Interview : Yoshiharu Kobayashi

  • 2011.10.7

  • CDJ-2000NXS2 DJM-900NXS2

400人ものミュージシャンが参加した『There’s Me & There’s You』とは対照的に、Herbertが演奏、歌、プロダクションを全て1人でこなした『One One』。ドイツの名門クラブRobert Johnsonで一晩の間に発せられたあらゆる音をサンプリングし(携帯の着信音やトイレでの会話まで)、ダンスアルバムへと構築してみせた『One Club』。そして、それに続く「One 三部作」の完結編としてリリースされたのが、Matthew Herbertの最新作『One Pig』だ。

 

そのタイトルからも察することが出来るように、このアルバムは「豚」をテーマに したもの。一匹の豚が生まれ、屠殺され、食べられるまでの「一生」の間に生まれた音をサンプリングして作られた、いかにもHerbertらしい問題提起的な作品である。三部作の中では音楽的に最も抽象的であり、取っつきにくいところがあるのは確かだが、そのアイデアの独創性と奥深さといっ た点では、群を抜いたものであることも間違いない。

 

『One Pig』のライヴショーのために来日していたHerbertに、たっぷりと話を訊いてきた。

 

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ーーそもそも、“One”と銘打った三部作を作ろうと思ったのは、どうしてなのですか?

 

Matthew Herbert:実は最初から三部作にしようと考えていたわけじゃないんだよ。この三部作の前に作ったアルバム『There’s Me & There’s You』は、400人ものミュージシャンを使って長い時間をかけて完成させたものだった。かなり大掛かりなものだったし、テーマとしても階級制社会とかカトリック教会の話とか、凄く壮大な物語を扱っていたんだよね。だから、次はもっとシンプルなことをやりたいと思って、何かひとつのことにテーマを絞ろうと思ったんだ。でも、なかなか絞りきれなくて、結果的に3つのゴールに分かれていったっていうことなんだよ。

 

 

 

ーーでは、この三部作には、互いの関連性はそれほど無い?

 

Matthew Herbert:そうだね。でも、関連性が全く無いとも言えないな。僕としては、この三部作を作りながら、未知の領域へとどんどん足を踏み入れる旅路を続けていたような気分だったよ。1枚目のアルバム(『One One』)は、「自分自身」っていう、よく知っている題材を取り上げた作品だった。で、2枚目のアルバム(『One Club』)は「クラブ」っていうテーマを取り上げたから、ある程度は知っているものだよね。とは言え、自分自身のことに比べれば、それほどは知らないっていう。そして、今度は「豚」っていう全く知らないテーマを扱うことにした。だから、作品を重ねるごとに未知の方へと進んでいっているんだよ。

 

 

ーーなるほど。ということは、この三部作の中では、『One Pig』が自分にとっては1番チャレンジングなものだったのでしょうか?

 

Matthew Herbert :チャレンジングっていう意味で言うと、意外と1枚目もそうだったんだ。というのも、全部を1人でやったわけだからね。アイディアをシェアしてくれる相手もいない中で、全てを自分で判断しないといけない。誰も良い悪いを言ってくれないし、しかも歌も初めて自分で歌って……だから、自分自身を今まで以上にさらけ出すような感じだったんだ。あれはあれでチャレンジングだったよ。2枚目も1人でやった時よりも楽だったかと言うと、そうでもなくて。っていうのも、クラブにいた500、600人っていうオーディエンスに対する責任が生まれるからね。これもある意味、挑戦だったんだ。でも、君の言う通り、今回が最もチャレンジングだったと思う。その理由は、扱っているテーマなんだよね。「生と死」っていう。しかも、僕自身のモラルを問われるようなところがあったから。

 

 

 

ーー『One Pig』は、三部作の中では音楽的に最も抽象的だし、エンターテイメント性も低い作品だと思います。それは今言っていたような、シリアスなテーマを扱っていることと関係があると思いますか?

 

Matthew Herbert:いや、僕自身は、『One Pig』がシリアス一辺倒だとも思っていなくて。豚を音楽に作り替えるわけだから、そこには遊び心も当然あるからね。ただ、農家の人に対する責任感とか、豚の一生を背負うような重荷は感じていたよ。

 

 

ーーでは、そもそも、豚の一生をテーマにしようと思ったのは何故だったんですか? 豚の一生が何を象徴していると感じたのでしょうか?

 

Matther Herbert:もちろん、「生と死」っていうテーマを扱うのであれば、それを人間でやれたら良かったと思うよ。だけど、実際問題、それは凄く難しいだろうね。人が生まれてから死ぬまでを音楽にするのは無理だろうって思ったから、動物でやろうと考えたんだ。なぜ豚かと言うと、数いる動物の中でも、豚は最も意見が分かれるような存在、好き嫌いが分かれる生き物だと思うからだね。それに、人間が物凄く頼っている動物だっていうのに、扱いがとても悪い。こうやって周りを見渡し てみても(※この取材はカフェで行われた)、豚の肉、骨、皮、エキスとかが至るところで使われている。このカップにだって、豚の脂は入っているかもしれない。 樹脂とか洋服とかもそうだよね。でも、そこまで色々と頼っておきながら、きちんと扱わないし、彼らの声に耳を傾けようともしない。そんな存在って、豚以外にはいないんじゃないかな? だから、このアルバムは豚を扱おうと思ったんだよ。その関係性が興味深いと思ったからね。

 

 

ーーもしかしたら今話してもらったことと重複するかもしれないんですけど、この『One Pig』っていうテーマを発表したときに、動物愛護団体から「動物虐待だ」というクレームが入ったんですよね? でも、実際にアルバムを聴いた印象は虐待とは程遠くて、むしろ動物虐待的な行為に対する葛藤のようなものを強く感じました。そのような意見については、どう思いますか?

 

Matthew Herbert:そうなんだよね。僕に異議を申し立ててきた愛護団体は、「殺しは殺しだ」、「どんな形であれ、殺しは悪だ」と主張しているんだけど、僕はそれにはとても同意できなくて。実際、今回扱った豚の母親も、数多く生まれた子供のうちの一頭を自分で殺しているんだ。そういう選択も動物の世界にはあるんだし、殺すという行為が全て悪いかと言うと、そうは言い切れないんじゃないかな。生きていくっていうことは、常に正しくて健全な判断をしたいと思いながら葛藤することだと思うんだ。考えてみると、動物の世界では、動物が動物を食べて食物連鎖が続いているわけだし、肉食が悪いとは言い切れないよね。でも、今の世の中って、なんでも明確に線引きしたがるんだ。それがキャピタリズムなんだろうけど。だけど、命っていうものは、そんなに割り切れるものじゃないし、実はとても混沌とし たものだと思う。僕の友達にもベジタリアンがいて、20、30年も肉を食べないでいたのに、また食べ始めたっていう矛盾を抱えている人が大勢いるしね。これは凄く難しいことなんだよ。だから、君の言う通り、僕がこのレコードで示したかったのは葛藤なんだ。これは、良いことなのか悪いことなのか、っていう葛藤を示して、聴いている人が自分で考える余地を残したかったんだよ。

 

 

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ーーでは、具体的にそれぞれの曲について訊かせてください。“December”や“January”といった曲には非常に激しい感情が込められているように感じたのですが、それは2月に豚の死が迫っていたことと何らかの関係があると思いますか?

 

Matthew Herbert:たぶんそれは、僕自身の豚に対する感情が投影されているというよりは、豚の置かれている状況が劇的に変化しているからだと思う。それまであったパターンのようなものが、12月辺りで壊れるんだよね。つまり、それまでは親豚や他の子豚たちと暮らしていた豚が、12月の時点で他の場所に移されたんだよ。その移された場所っていうのが、割とメタリックな環境と言うのかな、鉄がいっぱい使われていて、柵とかがある中に豚が入れられたんだ。景色が一変したんだよ。周 りからはトラクターのエンジンの音が聴こえてきたりして、楽曲制作に使える素材がどんどん変化していったんだ。そして1月になると、豚はいよいよトラックに積まれて出荷されていく……だから、その車のエンジンの音とかも使っていて。ある意味、ドラマティックな展開ではあるよね。9月から11月あたりまでは豚なりに「生きている」感じが出ていたんだけど、12月以降は豚の人生が違った方向に進んでいくっていうのは、確かにエモーショナルではある。けど、そこに僕が感情的に巻き込まれているというよりは、それまでの音楽的な流れから一気に変わるから、リスナーの心が動かされるんじゃないかっていう気がするよ。

 

 

ーーなるほど。では、これも僕の聴き手としての感情の変化が関係しているのかもしれないですけど、“February”や“August 2010”は豚が死んでからの曲ですが、それまでのアブストラクトな曲調から一変して、急に明快なダンストラックになりますよね。アルバムを聴いていると、この辺りから分かりやすい音へと変化することに安心感を覚えると同時に、コントロールが難しい生き物の音が使われなくなったから明快になったんだなという一抹の寂しさも覚えます。そういった捉え方については、どう思いますか?

 

Matthew Herbert:確かにそうだね。農場で録音作業をしていると、どうしても乱雑で扱いづらい音ばかりになってしまう。マイク1本を向けて豚の音を録音しようとしても、そこに3頭の豚が寄ってきてしまうっていうこともあったからね(笑)。他にも、風が吹くし、雨は降るし、トラクターは走るし……凄く複雑な状況だったと言えると思う。でも、その複雑さこそが、僕が描きたかった「命」というテーマと結びついてたわけなんだけどね。けど、豚がいなくなった2月以降は、途端に自分で音 をコントロールして作れるようになったんだ。もう豚は動いていないから、自分が思うように音は作れる。意外性は無くなるけど、通常の音、ノーマルなサウンドが作れるようになったっていうことなんだよね。スタジオでのレコーディングなんて、まさしくコントロールされた状態で、一本指でオーケストラも出せれば、自分の手だけでドラムもベースも作れてしまうわけだよ。それが全く不可能な、意外性に富んだ農場から、ふといつもの自分の音楽の世界へと引き戻されたのが、あの“February”なんだと思う。だから、馴染みのあるサウンドになっていて、リスナーは居心地の良さを感じるかもしれない。ただ、ひとつ言っておくと、“February”の冒頭で聴こえる「ドス、ドス、ドス」っていう音は、精肉業者が豚の肺を叩いて、空気を抜く作業をしている音なんだよ。それを知ってしまうと、ただ居心地が良いだけではなくて、ちょっとダークな部分も感じてしまうんじゃないかな。

 

 

ーー最後の曲“May 2011”は、豚の一生を追った後、少し時間が経ってから書かれた曲で、他の曲とは少し毛色が違うと思います。こういった曲は、アルバムの制作を始めた当初から入れる予定はあったのでしょうか?

 

Matthew Herbert:実は、あの曲を書いたのは“August 2010”と同じ時期だったんだけど、レコーディングしたのが翌年の5月だったんだ。こういった形でやろうというのは、最初から考えていたよ。というのも、ずっと付き合ってくれた豚に対する追悼の意味合いって言うのかな、豚が死んだ後にその豚が住んでいた小屋を訪ねて、そこで録音しようと決めていたんだ。でも意外だったのは、もう空っぽだと思っていた場所に、新しい豚が住んでいたことだね。母豚が新しい豚を何頭も生んだ直後だったんだ。その姿はとても美しかった し、穏やかな光景だと思ったんだけど、考えてみたらこの子豚たちも近いうちにまた……ということが脳裏をかすめてね。だから、レコーディングの時には、 当初思い描いていたのとは別の感情が生まれたんだよ。

 

 

ーー“May 2011”は本作で唯一歌詞のある曲ですが、ここでは扱われているテーマは非常に問題提起的だと感じます。というのも、ここであなたは「僕たちに必要なのはシンプルな生き方だけ」と歌っていますが、実際は豚を家畜として扱う問題も含め、私たちの生活は決してシンプルに割り切れるものでは無いからです。

 

Matthew Herbert:確かに、僕はあの曲で「僕たちに必要なのはシンプルな生き方だけ」と歌っている。ただ、その次のラインでは、「僕たちは愛さえあれば、日々の生活の中で、全てのものを拡大し、倍増させ、威厳を持たせることが出来る」と歌っているんだよ。僕が言いたいのは、むしろそっちなんだよね。僕は、人間がもっとお互いを愛し合うことが出来れば、より良い世の中になるんじゃないかって思っているんだ。でも、改めてそんなシンプルなことを曲の中で言うのは、少し恥ずかしい部分もあって。ちょっと世間知らずに思われるかもしれないと思ったしね。だけど、愛が暴力に勝れば、間違いなくこの世の中はより良いものになるはずなんだ。そ ういったことをこの中では言いたくて。わかるかな?

 

ーーええ、よくわかります。

 

Matthew Herbert:ただ、君の解釈も凄く嬉しいな。というのも、今回のプロセスを通じて常に僕が自分自身に問いかけていたように、聴いた人がアルバムから何か疑問点を感じ取って、そこから何か考えてくれるのが、僕にとっては1番嬉しいことだからね。

 

 

End of interview

 

 

 

Release information

 

matthew herbert one pig

Matthew Herbert

『One Pig』

Release date: 2011/9/7

Label: Hostess / Accidental
Cat no.: HSE30273
Price: ¥2490 (tax in)

 

Pioneer DJ

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